2016年11月3日木曜日

天皇の「お言葉」 憲法学者ら考察 樋口陽一さん 政治との関係めぐり指摘 石川健治さん 「象徴」議論の必要性説く (『朝日新聞』2016-11-02) ; 「現天皇が国民に代わって」「慎重に控えめに」良識的メッセージを発してきた現実を直視すべきだ

天皇の「お言葉」 憲法学者ら考察
   樋口陽一さん 政治との関係めぐり指摘
   石川健治さん 「象徴」議論の必要性説く

(略)

天皇には政治的権能がなく、その行為には内閣の助言と承認を必要とするとした新憲法のもとで、天皇は「ロボット」的な存在なのだと宮澤は説明していた。
宮澤があえてその言葉を使った背景には戦後の象徴天皇制に関する「健康な構図」のイメージがあった、と樋口さんは語った。
国民主権のもと、国民が選挙を通じ、政治家を介する形で、正しくロボットに入力していくという構図だ。

「しかし実際はどうか」と樋口さんは、2013年に政府(安倍政権)が開催した「主権回復の日」式典に言及。
「国論が分裂する中、沖縄県知事があえて欠席するような集会に天皇・皇后両陛下を引き出して、最後には(天皇陛下)万歳三唱を唱和した」と批判し、「いまだに日本国民は、宮澤先生の言った正しい意味での『ロボットへの入力』をすることができないでいる」と述べた。

かつて著書の中で樋口さんは、サイパンで元植民地出身の人々の慰霊碑に立ち寄ったり園遊会で国旗と国歌は強制にならないようにと発言したりしてきた現天皇は日本のワイツゼッカーのようだ、と評した。

講演でも「現天皇が国民に代わって」「慎重に控えめに」良識的メッセージを発してきた現実を直視すべきだと主張。
憲法がロボットならぬ「人間」を象徴の地位に置いている意味について議論を深める必要があると語るとともに、本来なら「国民が選挙を通して内閣の長に表現させるべきこと」だったとして、国民の責任に注意を促した。

石川さんは「法学教室」10月号の巻頭言で、憲法学者・清宮四郎(故人)が示した天皇の「象徴としての行為」論に着目した。

清宮は、天皇には憲法に規定された「国事行為」のほかにも「象徴としての行為」があると解釈し、国内巡幸はそれにあたると論じていた。そのうえで、象徴としての行為は天皇の「一身」に専属するものであるため摂政にはそれを担えない、と書いていた。

石川さんは、今夏の「お言葉」が、日本各地への旅は「天皇の象徴的行為」だと明言していたことに着目。
政府内にあった摂政論を封じ込める立論になっていた可能性を示唆するとともに、象徴とは何かをめぐる議論が必要だと説いた。
(編集委員・塩倉裕)

『朝日新聞』2016-11-02






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