2010年11月3日水曜日

川本三郎『荷風と東京 「断腸亭日乗」私註』を読む(1) 「はじめに」ほか 

今年の梅雨の頃から「永井荷風」という人にハマっています。
乱倫、淫乱、観察者、傍観者、散歩者、狷介孤高、やつし、などいろいろ評価のある人のようです。
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きっかけは、半藤一利「永井荷風の昭和」(文春文庫)を読んだことからでした。
これは再読でしたが。
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この半藤さんの本に、
佐伯彰一氏の指摘として、
荷風の経歴には一つの便乗の事実もなければ転向もなく、荷風全集には、いわゆる時勢の変化のため抹殺さるべき一つの小品すらない
という紹介があり、
半藤さんも、
この凄まじいばかりの一貫性、
しかも乱世にたいして頑強におのれを守りぬくばかりではなく、
ときに戦闘的であったところに
文明批評家としての荷風がある
と指摘されています。
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以来、荷風の「断腸亭日乗」(岩波文庫の「摘録」版でなく、岩波書店の6冊本)を読み、何冊かの荷風本をよみましたが、
川本三郎『荷風と東京 「断腸亭日乗」私註』(都市出版)平成8年9月
に勝るものはないのではないかと、今は思ってます。
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あまりに荷風に寄り添いすぎているきらいもありますが、そんな感想など、今の私にはおこがましい限り、ひとまずは、きっちりと読まして戴こうと思う。
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川本三郎さん
ずっと以前に、「朝日のようにさわやかに 映画ランダム・ノート」(筑摩文庫)など映画ものを読んだことがあります。
また、2008年に奥さんを亡くされ、今年出版された回想記『いまも、君を想う』が、城山三郎さんの同種回想記とともに話題になっています。
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【目   次】
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はじめに
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一 「病餘の生涯唯静安を願ふのみ」 - 「老い」の見立て
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二 老翁、俗を脱したり -  「老人」への共感
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三 「持てあます西瓜ひとつやひとり者」 - 単身者の文学
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四 山の手の子の下町住まい
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五 三味線の聞える町- 築地界隈
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六 下町のうっとうしさ
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七 崖の上の家 - 偏奇館独棲
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八 「余花卉を愛する事人に超えたり」 - 庭の小宇宙
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九 庭好む人 - 焚き火と掃葉
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十 山形ホテル
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十一 鴎外への景仰
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十二 「小鯵の盬焼、里芋田楽、味甚任し」 - 淡的な食生活
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十三 左團次との親交
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十四 歌舞伎  -  愛すべきいかがわしき
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十五 隅田川を渡って - 深川
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十六 放水路の発見
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十七 煙突の見える新開地 - 砂町
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十八 「偶然のよろこびは期待した喜びにまさる」 - 元八まんへの道
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十九 立ちあがる大東京- 震災後の復興
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二十 ランティエの経済生活
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二十一 探墓の興- 墓地を歩く
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二十二 車が走るモダン都市
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二十三 「つゆのあとさき」のころ
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二十四 「銀座食堂に飰す」-東京の復興は飲食物より
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二十五 銀座の小さな喫茶店で
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二十六 「見る人」の写真道楽
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二十七 「活動写真」との関わり
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二十八 私娼というひかげの花
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二十九 ある夜の女
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三十 濹東の隠れ里 - 玉の井
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三十一 陋巷での安らぎ
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三十二 「濹東綺譚」と「寺島町奇譚」
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三十三 玉の井から浅草へ
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三十四 浅草の「一味の哀愁」
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三十五 日中戦争下の日々
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三十六 「門松も世をはばかりし小枝かな」 - 戦時下の物質窮乏
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三十七 「家も蔵書もなき身」 - 偏奇館焼亡以後
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三十八 田園に死す
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あとがき
補註
参考文献
索引(地名・人名・書名)
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「はじめに」では、「断腸亭日乗」とはなにかを概括的に紹介されている。
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「断腸亭日乗」:
大正6年(1917年)9月16日37歳(数え39歳)~死の前日の昭和34年(1959年)4月29日、42年間の日記
大正6、7年頃は何日か抜けているが、大正9年頃からほぼ毎日、その後は東京大空襲に際しても、終戦直後の混乱期にも1日も欠かさず書き続けられる。
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「断腸亭」:
大正6年当時、荷風が住んでいた牛込区大久保余丁町の住居(父久一郎が明治33年に建てた来青閣)の一画に作られた六畳の書院の名。
荷風が好んだ花、断腸花(一般には秋海棠として知られる)から取られている。
また荷風は生来、腸が弱く、大正6年頃しばしばその不調に悩まされたことにも因む。
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谷崎潤一郎は、昭和19年3月4日、麻布市兵衛町の偏奇館に荷風を訪ねたときに「日乗」を見せられたとして、
「荷風氏の未發表のものにて最も貴重なるは大正年間以来の日記なり。日記は榛原製雁皮の罫引(最近は紙質變りたる由)に實にていねいにそのまゝ版下になるやうに記しあり。美しく製本して五冊づヽ帙(チツ)入りになりをれり」
と「疎開日記」に記しているそうだ。
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また、
荷風自身は、「日乗」昭和19年12月3日で、
「今日は余が六十六回日の誕生日なり。この夏より漁色の楽しみ尽きたれば徒に長命を歎ずるのみ。唯この二三年来かきつゞりし小説の草稿と大正六年以来の日誌二十餘巻たげ(ママ)は世に残したしと手革包に入れて枕頭に置くも思へば笑ふべき事なるべし」
と記し、後世に残したいと思うほど大事にしていた。
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遅くなりましたが、続きはコチラから始めています。
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「★荷風インデックス」をご参照下さい。
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荷風と東京―『断腸亭日乗』私註
荷風と東京―『断腸亭日乗』私註
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荷風と東京(上) 『断腸亭日常』私註 (岩波現代文庫)
荷風と東京(上) 『断腸亭日常』私註 (岩波現代文庫)
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永井荷風の昭和 (文春文庫)
永井荷風の昭和 (文春文庫)
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