2014年12月1日月曜日

首相の一般人攻撃許されるか フェイスブック書き込み波紋 際立つ「好き嫌い」 (西日本新聞) : 「FB閲覧者のコメントが首相の心の支え」

西日本新聞
首相の一般人攻撃許されるか フェイスブック書き込み波紋 際立つ「好き嫌い」
2014年11月30日(最終更新 2014年11月30日 03時00分)

 「批判されにくい子どもになりすます最も卑劣な行為だと思います」

 安倍晋三首相が25日、自身の交流サイト「フェイスブック(FB)」に書き込んだコメントがネット上で「炎上」した。

 首相がやり玉に挙げたのは、NPO法人代表幹事(当時)の大学生が小学4年生になりすまし、21日の衆院解散前後に開設したサイト「どうして解散するんですか?」。この中で小4の「中村君」は「なぜ1回で700億円もかかるのに衆院を解散するの。ぼくにはさっぱり分かりません」などと首相を疑問視した。

 22日になって慶応大の学生が「なりすまし」を認め謝罪したが、首相は25日のFBで学生を激しく批判。主にネトウヨ(ネット右翼)と呼ばれる人たちから賛同の書き込みがあふれる一方、脳科学者の茂木健一郎氏がツイッターで学生を擁護するなど、賛否が入り乱れた。

 結局、首相はFBから冒頭の書き込みを削除したが、一国の宰相が一学生をネット上で攻撃する姿をどう見るか。しかも、首相がFBでなりすまし問題を紹介するためシェア(共有)したのは、ヘイトスピーチ(憎悪表現)と批判が強いネット掲示板「保守速報」。そこに、首相への危うさを見る関係者は多い。

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 「これから何処(いずこ)に行って煙たがれるのか楽しみです」。安倍晋三首相は28日のフェイスブック(FB)にこう投稿した。首相と考えが近い産経新聞に掲載された記事にエールを送ったものだ。一方で、朝日新聞は度々批判している。

 昨年12月、靖国神社に参拝した時はすぐさまFBで紹介し、支持する「いいね」は7万件を超えた。昨年6月には、拉致問題で対立した元外務省幹部を「彼に外交を語る資格はありません」と名指しで批判した。

 政治的立場が異なる人をFBで批判し、賛同を得る。首相周辺の一人は「FB閲覧者のコメントが首相の心の支え」と言う。

 国会で昨年5月、首相のFBに閲覧者からの差別的コメントが多いことを指摘され「エスカレーションを止めるべきだ」と答弁した。だが、「首相はエスカレートする書き込みを放置している」とネットに詳しいジャーナリストの津田大介氏は言う。

 とくに、25日のFBで「保守速報」をシェア(共有)したことには批判が強い。保守速報は在日コリアンへの中傷や差別などを集めたサイトで、ヘイトスピーチ(憎悪表現)で裁判も起こされている。

 メディアと政治の関係に詳しい高千穂大の五野井郁夫准教授(政治学)は「人権に厳しい欧米では、保守速報はヘイトサイトとして閉鎖対象になる。政治家なら、それをシェアしただけで辞任に値する」と話す。

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 人事にも、思想的に共鳴する人物の登用が目立つ。NHK経営委員に作家の百田尚樹、思想家の長谷川三千子の両氏を起用したのがその典型だ。

 百田氏は2月の都知事選で保守色の強い田母神俊雄氏を応援し、その他の候補を「人間のくず」と呼んだ。長谷川氏は新聞社で短銃自殺した右翼団体元幹部の行為を礼賛した。こうした点を国会で度々問われても、首相は問題視しない。

 首相は8月、長崎市で被爆者の一人が「集団的自衛権に納得していません」と問い掛けた時、「見解の相違です」と言い切った。

 首相には「懐に飛び込んできた人をかわいがる」(周辺)という一方、「考えが違う意見を受け付けない狭さ」(野党幹部)があるのは否めない。思想的に「敵か、味方か」を峻別(しゅんべつ)する政治姿勢が際立つ。

 自民党幹部は「保守とは本来、先人がやってきたことを尊重する考えだが、最近、保守を名乗る中には現状を変革する思想がある」と首相への危惧を口にする。こうした政治姿勢だからこそ、「どの政権もできなかった難しい問題に立ち向かえている。きちんと国の方向を示している」と政権幹部は言う。

 今回の衆院選で勝利すれば、首相は2018年12月まで政権運営の時を得る。首相の最終的な政治目標は憲法改正だ。首相と近い政治団体は、16年夏の参院選で改憲の是非を問う国民投票の実施を目指している。

 国の根幹である憲法の改正はしかし、「敵か味方か」で割り切れるものではない。首相が選挙の先に憲法改正への道筋を描いているのであれば、異論を正面から受け止める政治姿勢こそ望みたい。

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 衆院選が12月2日公示される。大きな争点が「安倍政治」だとすれば、首相自身の姿も有権者にとって判断材料になる。首相の人間像を番記者が読み解く。

=2014/11/30付 西日本新聞朝刊=



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