2011年4月3日日曜日

夏目漱石「吾輩は猫である」再読私的ノート(3) 羅馬(ローマ)の王様樽金(たるきん)の小話 「金田事件」

夏目漱石「吾輩は猫である」再読私的ノート(3)
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迷亭がやって来る。
苦沙弥の細君が、苦沙弥氏の「無暗に読みもしない本許り買」う「道楽」を愚痴る。
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細君は、苦沙弥氏の言い訳についてこう語る。
「何んでも昔羅馬(ローマ)に樽金(たるきん)とか云ふ王様があって・・・」
「何でも七代目なんださうです」
「その王様の所へ一人の女が本を九冊持って来て買って呉れないかと云つたんださうです」
「王様がいくらなら売るといつて聞いたら大変な高い事を云ふんですつて、余り高いもんだから少し負けないかと云ふと其女がいきなり九冊の内の三冊を火にくべて焚(や)いて仕舞つたさうです」
「其本の内には予言か何か外で見られない事が書いであるんですつて」
「王様は九冊が六冊になつたから少しは価(ね)も減つたらうと思つて六冊でいくらだと聞くと、矢張り元の通り一文も引かないさうです、
それは乱暴だと云ふと、其女は又三冊をとつて火にくべたさうです。
王様はまだ未練があつたと見えて、余つた三冊をいくらで売ると聞くと、矢張り九冊分のねだんを呉れと云ふさうです。
九冊が六冊になり、六冊が三冊になつても代価は、元の通り一厘も引かない、それを引かせ様とすると、残つてる三冊も火にくべるかも知れないので、王様はとうとう高い御金を出して焚け余りの三冊を買つたんですつて・・・
どうだ此話しで少しは書物の難有味(ありがたみ)が分つたらう、どうだと力味(りき)むのですけれど、私にや何が難有いんだか、まあ分りませんね」
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そのうち、寒月もやって来る。
寒月が理学協会でやるという演説(「首縊りの力学と云ふ脱俗超凡な演題」)についてくどくど説明する。
ところが、迷亭が珍語を挟み、苦沙弥氏は遠慮のない欠伸をするので、寒月は途中で止めて帰る。
2~3日後、「越智東風の高輪(たかなわ)事件を知らせるために、「旅順陥落の号外を知らせに来た程の勢」で、迷亭がやってくる。
ところが、苦沙弥氏は、その知らせには「別段面白い事もない様だ、それを態々(わざわざ)報知(しらせ)に来る君の方が余程面白いぜ」とつれない反応。
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登場人物⑫:金田鼻子
そこに、「折柄格子戸のベルが飛び上る程鳴つて「御免なさい」と鋭どい女の声がする」
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「かの鋭どい声の所有主は縮緬(ちりめん)の二枚重ねを畳へ擦り付けながら這入つて来る。年は四十の上を少し超した位だらう。
抜け上つた生え際から前髪が堤防工事の様に高く聳(そび)えて、少なくとも顔の長さの二分の一丈(だけ)天に向つてせり出して居る。
眼が切り通しの坂位な勾配で、直線に釣るし上げられて左右に対立する。直線とは鯨(くぢら)より細いといふ形容である。鼻丈は無暗に大きい。
人の鼻を盗んで来て顔の真中へ据ゑ付けた様に見える。三坪程の中庭へ招魂社の石燈籠を移した時の如く、・・・」と、金田鼻子の容貌、特にその鼻の描写が続く。
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鼻子は、「実は私はつい御近所で・・・あの向ふ横丁の角屋敷」で、苦沙弥氏も知っている「あの大きな西洋館の倉のあるうち」の者と自己紹介する。
鼻子の亭主の金田氏は、「会社の方が大変忙がし」く、また、「会社でも一つぢや無いんです、二つも三つも兼ねて居るんです。夫(それ)にどの会社でも重役なんで---多分御存知でせうが」という。
ところが、苦沙弥氏は、「博士とか大学教授とかいふと非常に恐縮する男であるが、妙な事には実業家に対する尊敬の度は極めて低い。実業家よりも中学校の先生の方がえらいと信じて居る」人間で、金田氏と聞いても「尊敬畏服の念は毫も起らん」様子である。
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鼻子の来訪の目的は寒月の事について聞きたいことがあるという。
迷亭が、それを「やはり御令嬢の御婚儀上の関係で、寒月君の性行の一斑(いつぱん)を御承知になりたいといふ訳でせう」と要約する。
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その鼻子の依頼に対して、苦沙弥氏は何だかだと難くせをつけてはそれをはぐらかす。
挑発された鼻子は、「ぢき此裏に居る車屋の神さん」に苦沙弥亭を探らせたり、「新道の二絃琴の師匠からも大分色々な事を聞いて居ます」と、白状してしまう。
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それでも、寒月に関して、「大学院では地球の磁気の研究をやつて居」ること、「二三日(ち)前は首縊りの力学と云ふ研究の結果を理学協会で演説」したこと、「先達て団栗のスタビリチーを論じて併せて大体の運行に及ぶと云ふ論文を書いた事」などの情報を仕入れて、鼻子は退出する。
鼻子が帰った後、迷亭は、鼻子の容貌を「十九世紀で売れ残つて、二十世紀で店曝(たなざら)しに逢ふと云ふ相だ」と形容する。
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さてここで「吾輩」の出番。
先方は車屋の神さんなどを買収して情報収集しているのに、先生(苦沙弥氏)や迷亭では寒月の頼りにならないので、「吾輩でも奮発して、敵城へ乗り込んで其動静を偵察してやらなくては、あまりに不公平である」ということで、「吾輩」は金田亭へ乗り込む。
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金田亭では、鼻子と亭主が会話中であるが、先生(苦沙弥氏)への仕返しと迷亭の嘘に引っかかった悔しさを言うばかりで、寒月の事は話題になっていない。
(迷亭の嘘:迷亭は自分の叔父を牧山男爵と嘘をつくが、金田夫人はそれに騙されて、亭主がいつもお世話になっていると応じる。)
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その娘の様子も探ったが、これがハスッパ娘で、寒月に関しても、「寒月でも、水月でも知らないんだよ----大嫌ひだわ、糸瓜(へちま)が戸惑(とまど)ひをした様な顔をして」と言う具合。
これだけ知れば、吾輩の「探検は先づ十二分の成蹟(せいせき)である」。
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帰ってみると、いつの間にか寒月も混じって、「不相変(あひかはらず)太平の逸民の会合である。」
迷亭の「美学上の見地から此鼻に就て研究した・・・」などなど。
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そして、結論は、「此御婚儀は、迷亭の学理論的論証によりますと、今の中御断念になつた方が安全かと思はれます、是には当家の主人は無論の事、そこに寝て居らる」猫又殿にも御異存は無からうと存じます」、ということになる。
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その(四)に続く
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