2012年2月9日木曜日

貞観14年(872)~貞観15年(873) 摂政太政大臣藤原良房(69)没 後継は基経(37)

東京 北の丸公園(2012-02-09)
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貞観14年(872)
1月
・この月、来日した渤海使が「異土の毒気」を持ち込み、その結果、都では「咳逆病(がいぎやくびよう)」が流行して多数の死者が出た、として、朝廷では大祓(おおはらえ)を挙行。

この頃成立した『貞観儀式』巻10に規定されている追儺(ついな、大晦日に行われる疫鬼を追い払う祭り。鬼やらい)の祭文には、

「穢(きたな)く悪(あし)き疫鬼の、所所村村に蔵(かく)り隠ふるをば、千里の外、四方の堺、東方は陸奥、西方は遠値嘉(おちか、五島列島)、南方は土佐、北方は佐渡より遠(おち)の所を、汝たち疫鬼の住処(すみか)と定め賜い、行い賜いて」

とある。

ここでは日本国家の領域の外は「穢く悪き疫鬼」の住むべき穢れたところである、という観念の存在が明示されている。

閉じられた国土観念と、
対新羅問題に代表されるような異域に対する畏怖
及びそれと裏腹に成立した神国観に由来する。
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7月
・この月、清和天皇の異母兄の弾正尹(だんじようのかみ)惟喬(これたか)親王が出家し、叡山のふもとの小野に隠棲(法名:素覚)。
この事も清和を苦悩に導く。
文徳の第一皇子で父帝から嘱望されていた惟喬は、清和の生誕によって皇嗣たることを断念していた。
仏道に入った親王は、
白雲の絶えず棚引く峰にだに住めば住みぬる世にこそありけれ
とその心境を詠んだという。

清和天皇の外戚良房の専横を憎む右馬頭在原業平ら宮廷の不平派は、この非運の皇子に同情を寄せる。
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9月2日
摂政太政大臣藤原良房(69)、没。
政府は、非常の変に備えて六衛府の兵力をもって左・右兵庫、左・右馬寮を監護し、伊勢・近江・美濃などの関を警護した。

太政大臣良房の後継は基経(37)
良房の兄長良(ながら)の三男で、良房に見込まれて養嗣子(ようしし)となった。良房には、文徳の后となった明子のほかに実子はなかった。
基経の実父の官歴は中納言どまり。母の乙春(おとはる)は、仁明の女御沢子(たくし)の姉妹。
基経の正室は、仁明と沢子との間に生まれた人康親王の女で、前年、時平が誕生(良房の孫)。

基経は、仁寿2年(852)に蔵人として出仕、6年後に蔵人頭、貞観6年(864)に参議、僅か7年で中納言をへて大納言になる。
良房没の直前には右大臣となる。彼は、養父の後楯があるとはいえ、政治家としては非凡の能力を持っていた。
応天門焼失の問題を巡って源信が伴善男から攻撃されて窮地にたっていた時、冷徹敏速に活躍して紛糾におちいりかけた事態をみごとに収拾した。
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貞観15年(873)
この年
・この年、春宮庁院の火災。
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・唐、王仙芝の反乱。
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12月
・この月、陸奥守安倍貞行は、冬の収納事務のために諸郡に派遣した任用(掾・目)が、「富饒酋豪(ふにようしゆうごう)」(俘囚首長)から賄賂を取って脱税を見逃す動きに対し、担当任用の給与分で補填させることを政府に提言して認められた。

この政策は、「富饒酋豪」の語を「富饒百姓(ひやくせい)」に替えて全国的法令として布告される。

9世紀、一般諸国の正税出挙は富豪層を里倉負名として運用され、実質的に地税化していたが、この仕組は新たな版図である奥郡でも行われた。

全国画一的な人為的制度である編戸制・班田制を、蝦夷の伝統的首長制社会に導入することは不可能であったが、統制緩和のなかで生み出された里倉負名は、編戸制・班田制を経験しなかった奥郡の首長制社会にも、俘囚首長を里倉負名にすることによって導入でき、だからこそ陸奥国の政策提言が全国的法令として採用された。

奥郡俘囚対策用の厖大な正税稲を俘囚首長に割当て、彼らを通して奥郡内部や津軽・北海道の金・馬・羆皮(くまがわ)・水豹(すいひよう、アザラシ)皮・鷲羽(わしのは)を交易調達する方式が生み出された。
これが10世紀以降、奥羽両国では「臨時交易」という名の、厖大な絹・馬・金などの税になっていく。

整備された鎮守府
鎮守府のある胆沢城は9世紀後半、礎石建ち・瓦葺きの立派な政庁や十二脚門をもつ堂々としたものに整備拡充された。
胆沢城は統治のための施設であり、政庁は儀式・饗宴の場でもあった。
国司は、蝦夷・俘囚有位者を国府や鎮守府に招いて饗宴を行い、禄を与えていた。
それは「中華帝国」たる律令国家が奥郡俘囚や北方夷狄(異民族)を優恤・教喩し、服属関係を確認するための儀礼であった。
9世紀後半における鎮守府の整備は、俘囚首長たちを懐柔するために「中華帝国」的理念をなお必要としていたことを示している。
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12月17日
・大宰府の鴻臚館・津厨などを夷俘に守備させる為の財源として警固田100町が置かれる(『日本三代実録』)。
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