2013年10月19日土曜日

文科相是正要求 本末転倒の「恫喝」だ(琉球新報 社説)  社説[教科書是正要求]政治的介入を撤回せよ(沖縄タイムス)

琉球新報 社説 
文科相是正要求 本末転倒の「恫喝」だ
2013年10月19日

 八重山で中学公民教科書が一本化していない件で、下村博文文科相が県教育委員会に対し是正要求を指示した。竹富町教委が育鵬社の教科書を拒否して別の教科書を使っている点を批判し、町に是正措置を求めるよう指示している。 下村氏は違法確認訴訟についても「法治国家として行使はあり得る」と述べた。是正要求に従わなければ国が自治体を訴えるというわけだ。小自治体にとり訴訟費用の負担は重いから、これは「恫喝(どうかつ)」に等しい。

 最高裁判例は教育行政が法令に基づいて行うことも「不当な支配」に該当する場合があり得るとしている。文科相の措置はまさにこれに該当するのではないか。県や竹富町はその不当性を問うていい。

 八重山採択地区協議会が育鵬社を採択した過程は、石垣市教育長による協議会規定無視、非民主的運営の連続であった。その後、地区内全教育委員による採決で育鵬社版は否決された。
 竹富町教委の判断はこれらを受けたものだが、国民の多くはその過程を知らない。逆に、教科書無償措置法違反と言えば竹富町が何か悪いかのように印象付けられる。文科相の指示はそれを狙った全国向けの政治的印象操作であろう。

 そもそも違法か疑わしい。地方教育行政法は教科書採択権が市町村教委にあると定める。竹富町教委の決定はそれに基づく。法に基づく以上、合法ではないか。

 教科書無償措置法は無償で教科書を配る義務を国に対して課す法だ。地区内の教科書一本化はその無償化の場合の要件にすぎない。竹富町は無償化の恩恵を受けず、寄付を得て自前で教科書を配った。なぜそれが違法か。国に義務を課す、国を縛るための法律で、自治体を縛ろうとするのは本末転倒だ。

 地方教育行政法にも是正要求の規定はあるが、今回、文科省は地方自治法を根拠に指示した。文科省の権能として明確に定める法律でなく、あえて一般的な法を使ったのはなぜか。

 地方教育行政法は、「教育を受ける機会の妨げ」が明らかな場合に指示すると定める。竹富町教委は別の教科書を配布しているから、「機会」は「妨げ」られていない。指示の根拠がないから、この法の適用を避けたのではないか。

 そもそも教育の場に「恫喝」はふさわしくない。竹富町教委は「恫喝」に屈しない姿を児童生徒に示してほしい。


沖縄タイムス
社説[教科書是正要求]政治的介入を撤回せよ
2013年10月19日 10時06分 (3時間20分前に更新)

 特定の教科書を使え、と言っているようなものだ。教育に政治的イデオロギーを持ち込み、教育の名とはおよそかけ離れた要求である。国が教育現場に強権的に介入していると受け止めざるを得ない。国の介入は抑制的でなければならないという大原則に反し、離島の小さな町の地方自治に対する露骨な圧力だ。

 八重山地区3市町のうち竹富町が他の2市町と異なる中学公民教科書を使用していることに、下村博文文部科学相は地方自治法に基づく是正要求を県教委に指示した。採択地区ごとに同一教科書を使うよう定めている教科書無償措置法に違反するというのが理由だが、政治的な効果を狙った強引な印象を禁じ得ない。

 是正要求を指示するには、市町村教委が担当する事務処理で、法令違反があるか、著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害していると認められなければならない。従わなくても罰則はない。

 2011年8月、3市町教委の諮問機関である八重山採択地区協議会は公民教科書について「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ保守色の強い育鵬社版を選定し、3市町教委に答申した。

 会長の玉津博克石垣市教育長が非民主的な方法で選定手続きを次々と変更した結果だった。育鵬社版は推薦さえされていなかった。

 反発した竹富町教委は教科書の採択権限は各教委にあると規定する地方教育行政法に基づき東京書籍版に決めた。

 協議会の答申に強制力はない。下村氏が竹富町を違法状態というなら同一教科書を使っていない石垣市、与那国町も違法状態である。

    ■    ■

 文科省は選定過程が不透明で「育鵬社版ありき」の協議会の結論を重視。竹富町は教科書無償配布の対象から外れたため、住民らが寄付金を集め教科書を購入し、町教委に寄付。生徒に無償で届けられている。東京書籍版の使用は、2年目に入り、町教委は来年度も継続する考えだ。

 一連の竹富町教委の行為は先に挙げた地方自治法の是正要求の要件を満たすだろうか。町教委には何ら瑕疵(かし)はないというべきである。

 地方教育行政法にも文科相による是正要求の条文があるが、児童生徒の教育を受ける機会が妨げられたり、教育を受ける権利が侵害されたりしていることが明らかな場合を要件としている。

 竹富町では教育を受ける権利が侵害されていることはない。地方自治法で是正要求を指示せざるを得なかった下村氏の対応が、いかに無理筋であるかがうかがえる。

    ■    ■

 民主党政権は竹富町教委の対応を容認してきた。是正要求の指示は戦後教育の改革を掲げる安倍晋三首相の再登板とも無関係ではあるまい。

 県教委は23日に会議を開き、対応を協議することにしているが、是正要求の指示を竹富町教委にそのまま下ろすのか。指示に不服があるとして国の「国地方係争処理委員会」に審査を申し立てるのか。

 県教委には事実関係をあらためて検証してもらいたい。おのずと竹富町教委の正当性が明らかになるはずである。





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