2021年12月23日木曜日

灯   茨木のり子(「アムネスティ人権報告」1993年12月 67歳)

 


灯         茨木のり子


人の身の上に起ることは

我が身にも起りうること


よその国に吹き荒れる嵐は

この国にも吹き荒れるかもしれないもの


けれど想像力はちっぽけなので

なかなか遠くまで羽ばたいてはゆけない


みんなとは違う考えを持っている

ただそれだけのことで拘束され


誰にも知られず誰にも見えないところで

問答無用に倒されてゆくのはどんな思いだろう


もしも私が そんな目にあったとき

おそろしい暗黒と絶望のなかで


どこか遠くにかすかにまたたく灯が見えたら

それが少しづつ近づいてくるように見えたら


どんなにうれしくみつめるだろう

たとえそれが小さな小さな灯であっても


よしんば

目をつむってしまったあとであっても


(「アムネスティ人権報告」1993年12月 詩人67歳)

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