2013年2月23日土曜日

昭和18年(1943)2月22日 「此頃日々の見聞食物の事ばかりなり。」 (永井荷風「断腸亭日乗」)

北の丸公園 2013-02-20
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昭和18年(1943)
2月12日
二月十二日。晴。金兵衛にて去年より知り合になりし人 材木商 萩の餅をつくりたりとて家人に持たせ遣はさる。蓋し過日余が方より不用の煉炭をおくりし返禮なるべし。夕飯の後淺草に行く。仲店にて歌唄ひなにがしに逢ひ共に江川劇場楽屋を訪ふ。藝人川公一田谷力蔵等に逢ふ。
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2月13日
二月十三日。片割月漸くまどかになりたれば箪笥町崖下の横町も夜かへる時歩みよくなりぬ。去年十二月頃より街燈點ぜず月なき夜は徃々石につまづき轉ぶことありしなり。

  大島隆一著柳北談叢序
一世の奇才成嶋柳北の逝きしは明治十七年の冬なりき。然るにその聲名今に至るも猶籍々として衰へざること生前に異るところなし。・・・大島隆一氏ハ柳北が外孫なり。先人手澤の日誌尺牘並に家蔵の文書を渉猟するの傍先人が生前の知人親族に就いて問ふところあり。此を録して一書を著し題して柳北談叢となす。・・・
  昭和十八年癸未二月中旬永井荷風識。

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2月14日
二月十四 日曜日 阿部雪子と云ふ女より羊羹を貰ふ。晡時五叟女弟子一人三味線屋職人を伴ひ來り話す。この職人を余が代人となし町會にて防火練習の際出てもらふことになしたるなり。薄暮共に出でゝ金兵衛に飲む。
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2月15日
二月十五日。晴。高野純三と云ふ未知の人成嶋東岳が賜邸の事につき書を寄す。左の如し。
(略)
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2月16日
二月十六日。晴。春寒料峭。
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2月17日
・二月十七日。晴。午後淺草より入谷を歩む。野菜煮〆を得んとてなり。
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2月18日
二月十八日。半陰半晴。南風暴暖。華氏六十度を越ゆ。
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2月19日
二月十九日。陰。薄暮綾瀬川堀切邊散策。
  噂のきゝがき
荏原区馬込あたりにては良家の妻女年廿才より四十歳までのものを駆り出し落下傘米軍襲撃を防禦する訓練をなしたる由。其方法は女等めいめいに竹槍をつくり之を携へ米兵落下傘にて地上に降立つ時、竹槍にて米兵の眉間を突く計畧なりと云。軍部より竹槍の教師來り三日間朝十時より午後三時まで休まず稽古をなしたりと云。怪我せし女もありし由なり。良家の妻女に槍でつく稽古をさせるとは滑稽至極。何やら猥褻なる小咄をきくやうなり。
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2月20日
二月二十日。晴。明月晝の如し。淺草を歩む。
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2月21日
二月廿一日 日曜日 晴。寒気激甚。正午ゆき子來話。餅を貰ふ。晡時五叟來話。共に出でゝ金兵衛に飲む。炭欠乏して肴を焼く事能はずとて料理は悉く煮たものばかりなり。今宵も月よし。
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2月22日
二月廿二日。晴。洗濯屋の主人來り米の欠乏を告ぐ。五升程遣る。此頃日々の見聞食物の事ばかりなり。下谷兎屋主人來書。
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2月23日
二月廿三日。晴。風邪。
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2月24日
二月廿四日。晴。相磯氏より抱一句集を借覧す。鵬斎の序南畝の跋あり。
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2月25日
・二月廿五日風甚塞し。晩間玉の井を過り堀切を歩む。
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2月26日
二月廿六日。晴。春寒料峭たり。
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2月27日
二月廿七日。晴。
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2月28日
二月廿八日 日曜日 晴。稍暖なり。午後凌霜子來話。
  町の噂
一西銀座理髪店花菱の主人は・・・(略)
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