2013年4月24日水曜日

牧野和春『桜伝奇』を読む(2) 第11章 三春滝桜(福島県)-(その1)

牧野和春『桜伝奇』(日本人の心と桜の老巨木めぐり)
第11章 三春滝桜(福島県)-(その1)
1 桜久保のはなやぎ

滝桜の概観
「まず根元の周囲であるが、これが約十・五メートル。日本間にすれば六畳の部屋一つ分に相当する広さを持つ。樹高十メートル余。しだれ桜であるから太枝、中枝、小枝と先端は糸状となって無数に分岐している。枝張りは四方に十メートルから十三メートルであるが、十三メートルというのが西方であるから枝としては西側に張りだしている。

「滝桜」の名称は先述の如く満開のときの桜の花の景観があたかも滝の流れ落ちるさまを連想させるところからつけられたものだ。

「シダレザクラ」のわが国における最大の巨木として大正十一年(一九二二)、国の天然記念物に指定された。
推定樹齢七八〇年。・・・」

「花が咲くのは一般に四月下旬、同じ「シダレ」でも紅色をおびた「べ二シダレ」である。」

三春の盆唄
「三春の盆唄には滝桜が登場する。その一部。
- 滝の桜に手はとどけども、殿の桜で折られない・・・
つまり、滝桜はむかし地元の殿様、ぞっこんお気に入りの桜でもあったわけである。」

『滝佐久良(たきさくら)の記』『田村郡郷土史』
「滝桜については『滝佐久良(たきさくら)の記』(天保七年撰、筆者不明)、『田村郡郷土史』(明治三七年刊、田村教育全編)に詳しく紹介がある。

それによると、旧藩時代、三春藩主は殊に滝桜を賞愛し、毎年、この桜の開花期になると、家来に毎朝、早馬をとばさせて「いま何分咲き」と、刻々と報告させ、いよいよ満開になると藩主自ら花見にでかけたという。いまも桜を望む絶好の場所は「藩主花見の地」として伝えられている。

また、十八世紀、光格天皇の頃、三春藩士草川次郎なる人物が上洛のおり「高サ四丈二尺、周囲三丈二尺ノ桜アリ」と報告したところ宮中でも大いに驚かれ、きっそくに桜をめでる歌合わせが催されて、前内大臣大炊御内経久が、
都まで音に聞こえし滝桜いろ香を誘へ花の春風
と詠んだと伝える。

藩主はこの桜を「御用木」とし、その枝回り、米作三斗二升五合に当たる約三畝(約三〇〇平方メートル)の地租を無税とし、桜の保護に務めさせたと伝える。」

「『滝佐久良の記』には正保二年、秋田氏、入封のとき、すでにこの桜が大樹であった旨記されている、という。」

『天然記念物解説』
「大正十一年、内務省(当時)より「滝桜」が国の天然記念物に指定されたとき、この桜の調査を担当したのは史蹟名勝天然記念物調査委員三好学理博であったが、その『天然記念物解説』書には「滝桜古図」なるものが掲載されている。
これは一見して、当時をさかのぼる相当の昔、江戸期の描写図と察せられるが、こちらは主幹あくまで太く、実にたくましい滝桜として描かれている。」

2 日本人の心と「シダレ」

シダレザクラ:エドヒガンの突然変異の園芸品種
「「シダレザクラ」は「エドヒガン」を母種として生まれた、とされる。

エドヒガンは別項でも述べたようにアズマヒガン、ウバヒガン、ヒガンザクラなどと呼ばれてきた。本州・四国・九州のほか朝鮮の済州島、台湾、中国大陸中部にも分布する。

またエドヒガンには特徴として大幅の変異が認められることは研究者が指摘するところだ。花の色が濃いもの、逆に白っぽいもの、花弁も重弁化したものなど、いろいろある。

シダレザクラはそうしたエドヒガンの突然変異によって生じたものとされ、それを人々が珍重、栽培化し、園芸品種として育ててきたものであろうと推測される。」

園芸品種としての桜:八重、枝垂れ
「園芸品種としての桜はすでに平安時代にいくつか認められる。『詞花集』の

古の奈良の都の八重桜 けふ九重ににはひぬるかな(原文のまま) 伊勢大輔

の歌は、その頃、すでに八重桜の花があったことを示している。

山田孝雄『桜史』によれば、永暦六年(一一六〇)七月に藤原清輔の家に催した歌合のとき、桜の題で顕昭がよんだ歌をあげている。
すなわち、

わざもこがはこねの山の糸桜 結びおきたる花かとぞ見る(『未木集』第四)

また、『散木集』第一にみえる源俊頼の歌、

あすもこんしだり桜の枝ほそみ 柳の糸にむすぼほれけり

を掲げ、この「糸桜」というのは「しだり桜」と同じではないのか、といっている。

「しだり桜」はもちろん、「シダレザクラ」のことで、平安の昔、「糸桜」と呼ばれていたものと推定されている。また、顕昭が詠んだ「糸桜」は京都・白河の法勝寺にあったことが『古今著聞集』(一二六四年)、『風雅集』 にみえる。

中尾佐助は、日本の花卉(かき)園芸は室町時代に大転換期を迎え、奈良朝以来続いた中国園芸の模倣だけでなく、日本独自の創造的分野をひらき、大進展の道を歩きはじめることになった、として室町時代を高く評価している(『花と木の文化史』岩波書店、一九八六年刊)・・・。

なかでも、八重と枝垂(しだれ)とはもっとも歴史のふるいものであったことが分る。」

京都で有名なシダレザクラ
「シダレザクラについては、とくに紅色の濃いものとして「ベニシダレ」、更にこれが八重化したものとしての「ヤエペニシダレ」がある。

現在、しだれ桜で全国に有名なのは夜桜で知られる京都、祇園の円山公園の「枝垂桜」であるし、一方「八重紅枝垂」で有名なのは京都、平安神宮境内の桜であろう。この桜はもと京都の御所より宮城県、塩釜神社に下賜されたものであったが、明治二八年(一八九五)、仙台市長であった遠藤庸治が平安神宮に献上したものだ。よって「遠藤桜」とも呼ばれている。」

(その2につづく)

HP「桜日和」さんの三春滝桜(コチラ)

福島の桜 雪の三春滝桜

福島の桜 ● 滝桜 ● 2013・4・13快晴 \(^o^)/♪






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