2013年6月29日土曜日

朝日新聞投稿者に嫌がらせ ネットに個人情報、不審電話

朝日新聞    2013年6月28日8時4分
朝日新聞投稿者に嫌がらせ ネットに個人情報、不審電話

 朝日新聞の投書欄「声」に掲載された読者の投稿が、詳しい住所と電話番号が加えられてインターネットの掲示板やブログに無断転載された。住所などを載せられた読者の中には、自宅に嫌がらせの電話がかかったり郵便物を送りつけられたりした人もいる。こうした事態をうけ、朝日新聞は、ブログを運営する会社に対し、投書や住所などの削除を要請した。

 「声」欄に投書が掲載された読者が被害を受けたことを、朝日新聞が最初に把握したのは昨年秋。自宅や勤務先に無言電話や嫌がらせの電話があったとの訴えが複数の読者から編集部に寄せられた。日記風ホームページ・ブログのコメント欄に、紙面に掲載された投書、氏名とともに、紙面には載せていない詳しい住所と電話番号が掲示されていた。

 朝日新聞は当初、個別に対応してきた。しかし、ネット上での書き込みの状況を調べたところ、投書の無断転載と住所、電話番号の書き込みがブログやネット掲示板で続き、今年春ごろから増えていることがわかった。今月にかけて少なくとも30人分が載せられた。勤務先などの電話番号が書き込まれた例もあった。

 読者から聞き取りをした結果、これまでに14人が嫌がらせや無言の電話を受け、そのうち2人には郵便物が届いていた。

 中部地方の男性は昨年10月、投書が紙面に掲載された。安倍晋三・自民党総裁の改憲姿勢に疑問を呈する内容だった。数日後の午前3時すぎに自宅に電話があり、無言がしばらく続いた後、男の声で「売国奴」とののしられたという。住所と電話番号がブログに掲載されたことをあとで知った。

 男性は「声」欄に投書が何度か掲載されている。「嫌がらせの電話は多いが、表現の自由は一人ひとりの不断の努力で守っていかなければならない。ひるまずに投書を続けたい」と話す。

 憲法9条を守りたいという趣旨の投書が掲載された男性の自宅には、まもなく、男の声で投書をとがめる内容の電話があった。「お前の家はわかっているぞ」とも言われた。

 ブログや掲示板に載せられた住所や電話番号は、ネットの電話帳などを使って調べたとみられる。投書した読者と同姓同名の別人の住所などが書き込まれたケースもあった。

 朝日新聞は、「投書した読者の平穏な生活が脅かされる深刻な事態が生じている」として26日、ブログを運営する会社に、投書や住所などの速やかな削除を求める申入書を送った。投書の無断掲載は著作権の侵害、住所や電話番号の書き込みはプライバシー権の侵害にあたる違法な行為だと指摘した。

■ネット巡る被害相次ぐ

 インターネット上に個人情報が無断で掲載され、嫌がらせを受ける被害はほかでも起きている。

 国民生活センター(東京)によると、「ネットで自分の名前を検索すると、住所録のようなものが載っているサイトがある」といった相談が、昨年春ごろから約20件寄せられている。「最近、勧誘の電話が増えたのはこのせいかもしれない」「不安なので削除を求めたい」などの訴えがあるという。

 ネット絡みのトラブルを手がける久保健一郎弁護士のもとには「ネット上に住所を無断で書き込まれ、その後に家に不審者が訪ねてきた」といった相談がある。久保弁護士自身、ネットの掲示板に悪口を書かれたとして発信者情報の開示を求める訴訟を起こしたことがある。「ネット上では書き込みをコピーして簡単に拡散できるので、対処が難しい」と指摘する。

 日本弁護士連合会の情報問題対策委員長を務める清水勉弁護士は「様々な方法で得た個人情報をネット上で勝手につなぎ合わせ、書き込むことが当たり前のように行われている。本人が了解していない個人情報の使われ方は問題で、朝日新聞だけの話ではない」と話している。

■卑劣な言論の抑圧 阿部俊幸(朝日新聞東京本社・声編集長)

 新聞の投書欄に投稿した人の個人情報をネット上でさらし、嫌がらせの電話などをするのは卑劣です。言論の封殺につながりかねません。

 こうした行為には、自分の考えと少しでも違う意見を排除しようとする悪意を感じます。異なる意見があるのなら、匿名で個人を傷つけようとするのではなく、堂々と述べるべきです。「声」欄ではこれまでも、消費税増税反対や原発推進といった、社説とは異なる主張も掲載してきました。

 私たちは、今後も書き込みが確認できたサイトには削除を要請していきます。今回のことに対応するため、編集部内にチームをつくりました。相談の窓口となり、投書した人たちをしっかり支えていきます。

 投書した人が住む地域や年齢、職業は、発言する人の立場を伝える重要な情報です。匿名の投書では無責任な意見が増える心配があります。実名で安心して意見を言える場、そして社会を守っていくことが大切だと考えます。

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