2013年10月30日水曜日

「国土強靱化」に名を借りて公共事業をバラ撒き ゼネコンに「5億円献金せよ」と迫る自民の大暴走(SAPIO 武冨薫)

「国土強靱化」に名を借りて公共事業をバラ撒き ゼネコンに「5億円献金せよ」と迫る自民の大暴走
(SAPIO 2013年10月号掲載) 2013年10月24日(木)配信
文=武冨薫(ジャーナリスト)

 新聞・テレビは参院選での自民党大勝で国会のねじれが解消し、これから「決められる政治」が始まると歓迎した。しかし野党壊滅でもたらされたのは、巨大公共事業の利権を求めて暴走する自民党の姿だ。“昔陸軍、今自民党”というべき国民無視の危うい政治の暴走が始まっている。

 この夏から秋にかけて、自民党の各派閥は野党時代に休止していた派閥研修会を復活させた。先陣を切った二階派の研修会(8月19日)では、今後10年間で200兆円を投じてインフラ整備を行なうという自民党の「国土強靱化計画」の旗振り役、二階俊博・自民党国土強靱化総合調査会会長が地元・和歌山でこう怪気炎を上げた。

「われわれが日本国中の防災に取り組む責任がある」

 まさに“公共事業の配分はオレが仕切る”といわんばかりの宣言だった。

 他の実力者たちも負けてはいない。

 その1週間前に金沢市で開かれた「北陸新幹線建設促進県民会議」では、森喜朗・元首相や甥で自民党整備新幹線等鉄道調査会幹事長の岡田直樹・参院議員が「1年でも早く開業を」と口をそろえて昨年着工したばかりの北陸新幹線金沢─敦賀間の予算増額に向けて気勢をあげた。

 自民党は参院選の都道府県連ごとの地方公約で全国に巨大プロジェクトをつくりまくる計画をぶち上げている。北海道、北陸、九州の整備新幹線(3ルートの総事業費約3兆8808億円)や中央リニア新幹線(約9兆円)をはじめ、愛知県連は知多半島と渥美半島を結ぶ「セントラル大橋」(1兆円以上)、二階氏の地元・和歌山では「紀伊半島一周自動車道」(1968億円)、愛媛県連は四国新幹線(数兆円)、石破茂幹事長の地元・鳥取市と安倍首相の地元・下関市を結ぶ「山陰縦貫超高速鉄道」(約4兆円)の建設構想も浮上している。

 参院選が終わって、いよいよ約束手形を落とさなければならない。

 そこで安倍政権は8月8日の閣議でまず来年度予算の概算要求に3兆6000億円の「新しい日本のための優先課題推進枠」を設定することを決め、各県連や自民党の実力者同士の予算ぶんどり合いのゴングが鳴ったのだ。

 自民党の予算獲得合戦の“台風の目”となるのが首相の地元・山口県だ。

 実は、同県はこれまで公共事業の予算獲得で出遅れていた。安倍政権はアベノミクスの三本の矢に「機動的な財政出動」を掲げ、今年2月に12兆円の緊急経済対策を組んで道路整備を中心に公共事業費を倍増させた。そして、その恩恵をさらったのは二階氏だった。今年度予算の都道府県別の国直轄道路の箇所付けを調べると、二階氏の地元・和歌山県が541億円と突出しているのに対し、山口県は5分の1の107億円、石破幹事長の地元・鳥取県の178億円にも遠く及ばない。

 そこで首相自ら巻き返しに出た。

 参院選直後の7月26日、首相の選挙区・下関市で7年ぶりに「関門海峡道路建設促進協議会」の総会が開かれた。現在、関門海峡には関門橋と関門トンネル(道路、鉄道、新幹線の3本)があるが、そこに新たに道路と鉄道が通る「第2の関門海峡大橋」(トンネル計画もある)を建設しようという計画だ。総事業費は2000億円以上(併用橋の場合)と試算されている。

 この計画は福田康夫内閣時代の08年に他の5つの海峡大橋計画とともに凍結されたが、「国交省はすでに工法やルート、工事費、用地買収費を詳細に記した事業計画を策定しており、安倍政権が凍結解除を決めればすぐに事業に着手できる状態になっている」(地元の自民党市議)という。

 総会には昨年の知事選にこのプロジェクト再開を掲げて当選した安倍側近で国交省出身の山本繁太郎・山口県知事ら地元首長がこぞって出席し、関門海峡両岸の財界で組織する同協議会の新会長には麻生太郎・副総理兼財務相の実弟の麻生泰・九州経済連合会会長が就任した。

 麻生氏の地元・福岡県は巨大プロジェクト「国際リニアコライダー」の国内候補地選定で東北(岩手)に敗れたばかりだが、抜け目なく安倍首相の地元と組んで第二関門道路を実現させようと狙いを切り替えた。

ゼネコンへの献金要請と
発注価格の引き上げ

 今の自民党の姿は、勝てないことを承知で日米開戦に向かい、軍事予算をとりとめもなく拡大させていった戦前の軍部の狂気を彷彿させる。

 戦前の日本はワシントン軍縮条約を破棄(1934年)すると海軍は大艦巨砲主義に走り、陸軍も日華事変の拡大とともに海軍と競って予算をどんどん増加させ、満州国を建国した36年の軍事費は国家予算の約48%、日米開戦の41年には約76%に達した。さらに軍部は正規の予算とは別枠の「臨時軍事費特別会計」を設け、第二次大戦中の8年間の総額は1553億円(41年の国家予算165億円の10倍)に達した。

 安倍政権は国の借金が1000兆円を超えたと財政危機を訴えていながら、各議員、各派閥が「オラの選挙区にはカネを」と常軌を逸した巨大事業を競い合い、国土強靱化を理由に予算のタガを外している。「米国と戦争すれば勝てない」と知りながら、「日米決戦のためにより高性能の戦艦や戦闘機を」と軍事費拡大を競い合った陸軍、海軍の苦い教訓をすっかり忘れている。

 戦前の軍部では、関東軍の満州経営は鮎川義介の「日産コンツェルン」など新興財閥と一体になって行なわれた。いかなる大義名分があろうと、現実に戦争は軍部・財閥の利権拡大によって歯止めが利かなくなっていったという面は否定できない。自民党も「防災」のかけ声とは裏腹に、予算を国民の安全や国益のためではなく、党利党略、なかんずく政治家個人の利権拡大のために使っている。

 その象徴がゼネコンへの献金要請だ。参院選前、自民党は石破幹事長ら党役員の連名でゼネコンの業界団体「日本建設業連合会」に4億7100万円の選挙資金の献金を文書で要請し、各派閥は盛大なパーティーを開いて資金を集めた。

 露骨な見返りも行なっている。安倍政権は今年4月から、公共工事の発注価格の基礎となる「設計労務単価」を全国平均で15%も大幅に引き上げた。例えば、東京の型枠工の予算上の日当の基準(8時間労働)は1万7000円から2万200円に引き上げられ、政府や自治体の公共工事の発注価格は平均で5%アップした。さらに新単価を特例措置で3月までに入札された前年度分の受注にもさかのぼって適用し、公共事業を受注したゼネコンは労せずして受取額が増えたのである。

 それが建設労働者の賃上げにまわるならまだいい。だが、西日本のサブコン役員は、「建設労働者の人件費が高騰しているのは震災復興需要がある東北だけ。西日本では相変わらず下請け業者は叩かれ、赤字受注でとても賃金は上げられない。労務単価見直しの恩恵があるのは元請けのゼネコンだけでしょう」と語る。

 税金でゼネコンを潤し、その一部が自民党に還流する。そのツケは今後、確実に国民生活を圧迫していく。

 自公民3党は昨年、「全額社会保障の充実にあてる」と国民に約束して消費税増税を決めたが、安倍政権が8月21日、閣議決定した社会保障制度改革のプログラム法案には、年金の支給引き下げや公的年金等控除の縮小、高齢者(70~74歳)の医療費窓口負担の2倍増、介護保険では「要支援1~2」に認定された高齢者への保険給付停止などの国民負担増がこれでもかと盛り込まれ、生活保護費の引き下げ法案も臨時国会に提出する方針だ。

 社会保障のための増税が、巨大公共事業遂行のための“戦時増税”にすりかえられ、国民は窮乏生活を迫られる。まさにいつか来た道と同じではないのか。







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