SYNODOS 2014.11.10 Mon
関東大震災における朝鮮人虐殺――なぜ流言は広まり、虐殺に繋がっていったのか
加藤直樹×山田昭次×荻上チキ
91年前に起こった関東大震災。そこでは、「朝鮮人が武器を持って暴動を起こしている」、「井戸に毒を入れている」などといった流言が広まり、日本人によって多くの朝鮮人が命を奪われる事態になった。では、なぜそのような流言が広がり、朝鮮人の虐殺に繋がっていったのだろうか。ヘイトスピーチが問題となる今、関東大震災について考えることで、私たちは歴史から何を学ぶべきかを追求していく(TBSラジオ 荻上チキSession-22 「加藤直樹×山田昭次『関東大震災』もうひとつの記録」より抄録)。
(略)
本当に虐殺はあったのか
荻上 今日はまず、この質問を読みたいと思います。
「今日のテーマですが、本当に虐殺はあったんでしょうか。このようなテーマ設定をすることこそが、無実の日本人を貶めることに繋がると考えないのですか」
というメールをいただきました。昨今、朝鮮人虐殺はそもそもなかったのだ、という主張も出ていますので、その妥当性は番組内で少し取り上げたいと思いますが、こうした意見は山田さん、いかがですか。
山田 (朝鮮人虐殺は)ありました。あったというより、他ありません。実に残酷な殺し方をしたんですよね。特に女性に対しては、陰部をわざと刺すとか、妊婦だと腹を裂いて、中の胎児を引き出すとかね。
男性に対しても、竹やりで殺したり、火の燃えている中に投げ込んだり、そういうことをやっているんですけど、女性に対する殺し方は更に残酷でした。民族差別と女性に対する性的な差別が、二重になっていたと思います。
加藤 僕からもそのご質問に対しては、簡単にお答えできると思います。たぶんその方は忘れているんでしょうけれども、昔から、歴史の教科書で朝鮮人虐殺に触れていないものはほとんどないんですよね。中学か高校で目にしているはずなのです。今でも、中学の歴史教科書で朝鮮人が虐殺されたことに言及していないのは、一番右寄りの自由社の教科書だけです。
あるいは、内閣府中央防災会議の「災害教訓の継承に関する専門調査会」で出した「1923関東大震災報告書第2編」の中でも、「混乱の拡大」「殺傷事件の発生」というタイトルで、虐殺をメインに取り上げて、それがどのように展開したかということを論じているんです。
荻上 2009年だから、自民党政権の時ですよね。
加藤 そうですね。この報告書では、虐殺によって殺された人々(朝鮮人と、誤殺された日本人、中国人)の数は、震災全体の死者数の1%から数%に上るだろうとまとめています。当時震災で死んだ人は10万5000人ですから、1%はほぼ1000人です。そういう規模の虐殺があったことを、内閣中央防災会議の報告書が明らかにしているわけです。つまりこれは、歴史学の常識なのであって、まともな歴史学者の範疇に入る人で、「朝鮮人虐殺はなかった」と言っている人は一人もいないのです。
また、震災後の2年後に出た警視庁の報告でも、「朝鮮人が暴動を起こした」といった話が流言であって事実ではなかったということを前提に書かれています。そうした流言がどのように発展し、どのように広がっていったのかということも分析しています。多くの朝鮮人が殺傷されたことについても書いています。
当時のメディアでもそれは同様です。例えば、戦前を代表する保守派のジャーナリストである徳富蘇峰も、「かかる流言飛語―即ち朝鮮人大陰謀―の社会の人心をかく乱したる結果の激甚なるを見れば、残念ながら我が政治の公明正大と云ふ点に於て、未だ不完全であるを立証したるものとして、また赤面せざらんとするも能はず」と書いています。
要するに朝鮮人虐殺が実際にあったこと、朝鮮人暴動などデマだったことは当時から常識だった。今になって、暴動はデマじゃなくて本当にあった、虐殺はなかったというようなことを言い出すのは、90年経って当時を知る人がもはやこの世にいなくなったのと、それをいいことに歴史を改ざんしようとする人々が増えたということです。
(略)
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