東京新聞【社説】
NHK籾井会長 再び問いたい適格性
2015年2月20日
NHKの籾井勝人(もみいかつと)会長の発言が再び波紋を広げている。視聴者が受信料で支える公共放送のトップとしての適格性を、やはり欠いてはいないか。このままではNHKの信頼が損なわれかねない。
十八日、籾井会長は経営計画を説明するため出席した民主党の会合で、これまでの問題発言を追及された。
従軍慰安婦問題を番組で取り上げるかどうか、政府の方針をみて判断するとした五日の発言などで弁明に終始。会長就任時に理事全員の辞表を集めた件もあらためて追及され、会議後に「くだらん」とこぼして、これに抗議する民主党議員と罵声を交わした。
一万人を超える職員のトップとは思えない冷静さを欠いた応酬はテレビでも放映された。
問題は会長だけではない。同じ日、放送総局長は記者会見で「NHKの職員といえどもサラリーマン。(上の意向への)忖度(そんたく)は企業や組織には普遍的に存在している」と述べて、会長や予算承認権を握る与党の意向を忖度する空気が局内にあることを認めた。
NHKはBSで毎朝、世界の主要局の報道を「ワールドニュース」として放送している。キャスターから編成まで国柄が出るが、重要な違いは政府との距離感にある。英BBC放送、仏F2などはしっかり距離を取り、政府に対し冷静で批判的な視点から報道している。一方、ロシアRTRなどはプーチン大統領を主役にした政府の宣伝番組としか受け止められない内容だ。
「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」という発言が示すように、籾井会長は就任当初から、政府寄りの姿勢が批判を浴び、NHKトップとしての資質に疑問符が付いてきた。二年目に入ったが、その発言からは自覚も反省も感じられない。
放送の影響力は強い。放送法は第一条で「不偏不党」を、第三条では法律に定める権限に基づく場合でなければ干渉されない、と番組編集の自由を定めている。
「意見が対立している問題では多様な角度から論点を明らかにするよう」求める第四条は、集団的自衛権や原発再稼働、沖縄の基地問題など難問に直面して世論が割れているからこそ大切だ。
NHKは時の政権の代弁者になってしまうのではないか。視聴者の懸念はさらに強まった。
公共放送を担う適格性があるのか、籾井会長は自らに問うべきではないか。
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