2015年3月2日月曜日

小出裕章助教が定年退官 : 「風知草 : 去っていく男=山田孝男」 (毎日新聞) : 「「退職後、どうなさいますか」と質問が出た。「仙人になります」と小出。「原子力廃絶まで闘うはずでは」の声も出て、爆笑と拍手。司会が「小出仙人は走り続けるでしょう」と補った。この司会、小出の後輩にして同志、今中哲二・同実験所助教(64)である。」

風知草:去っていく男=山田孝男
毎日新聞 2015年03月02日 東京朝刊

 京大原子炉実験所の小出裕章助教(65)が3月末で定年退官する。

 脱原発派のヒーロー。原発推進派から見れば憎むべき扇動家。自分では「原発を阻めず、敗北した」男だと思っている。

 2月27日、41年間勤めた実験所(大阪府熊取町)で退官記念講演に臨み、「徐々に引退する」と宣言して惜しまれた。「でも、簡単には引き下がれません」と懇親会ではあいさつし、満場の拍手を浴びた。

 原発事故から4年。なお衰えぬ小出人気は、「万事制御(アンダーコントロール)神話」など誰も信じていない現実の反映であるにちがいない。

 小出は、90分の講演をこうしめくくった。

 「私は愚かにも原子力平和利用という夢を見、(誤りに気づいて)なんとか止めたいと願ってきましたけれども、原子力を進める組織はあまりに巨大で、敗北し続けた。一体何のために生きてきたのかと思わないでもありません」

 「でも、私は自分のやりたいことを続けることができた。誰の命令も受けなかったし、最下層の教員(助教)ですので、命令する相手もいなかった」

 「(それに)多くの仲間とめぐり合い、皆さんともお目にかかれたわけで、ありがたいことだと思っています。私を見守ってくださった方々がたくさんいらっしゃる。本当にありがとうございました。これで終わります」(拍手)

     ◇

 東京・上野生まれ。開成高から東北大工学部へ。原子核工学を修めたが、女川(おながわ)原発(宮城県)反対派との討論を経て脱原発へ。

 以後、生涯ヒラ教員として「原子力をやめるための研究」に打ち込んだ。遠い目標を見据え、名利を顧みない。一徹な生き方そのものが、小出への関心をかき立てる面がある。

 聴講者140人。「退職後、どうなさいますか」と質問が出た。「仙人になります」と小出。「原子力廃絶まで闘うはずでは」の声も出て、爆笑と拍手。司会が「小出仙人は走り続けるでしょう」と補った。この司会、小出の後輩にして同志、今中哲二・同実験所助教(64)である。

 脱原発が失速し、小出への講演依頼も減ったかと思いきや、さにあらず。既に8月末まで(隔週の土・日しか受けないのだが)予約がびっしり。申し込みは引きも切らないが、徐々に減らしたいという。

 度重なる講演と出版。もうかりましたか? 聞きにくいことを聞くと、4秒間沈黙の後、小出は「もうかりました」と笑顔でうなずき、こう続けた。

 「ただ、講演をしたいとか、出版したいとか、私から申し込んだことは一度もありません。欲しくて望んだものはない。お金が欲しいと思ったことがない。私がお受けするのは貧乏な方々がほとんどですので、もうかったとはいっても、皆さんが思ってるほどじゃないと思いますよ」

     ◇

 小出はこう考える。過去200年の科学技術発展とエネルギー消費拡大をなお続ければ、人類は滅亡に至る。破局は、早ければ100年以内に来る。エネルギー消費自体を減らさなければならない。それでもやっていける社会を創り出す必要がある−−。

 だが、官民にわたる日本の原子力複合体は、エネルギー消費の維持拡大を前提に原発を守れという。見かけの豊かさ優先だから、原発汚染水流出も軽視される。「消費伸びて人類滅ぶ」でよいか。問うまでもないと私も思う。(敬称略)=毎週月曜日に掲載



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