2016年4月25日月曜日

灯 (茨木のり子 「アムネスティ人権報告」 1993年12月)

鎌倉 長谷寺 2016-04-25
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灯    茨木のり子


人の身の上に起ることは
我が身にも起りうること

よその国に吹き荒れる嵐は
この国にも吹き荒れるかもしれないもの

けれど想像力はちっぽけなので
なかなか遠くまで羽ばたいてはゆけない

みんなとは違う考えを持っている
ただそれだけのことで拘束され

誰にも知られず誰にも見えないところで
問答無用に倒されてゆくのはどんな思いだろう

もしも私が そんな目にあったとき
おそろしい暗黒と絶望のなかで

どこか遠くにかすかにまたたく灯が見えたら
それが少しつつ近づいてくるように見えたら

どんなにうれしくみつめるだろう
たとえそれが小さな小さな灯であっても

よしんば
目をつむってしまったあとであっても


   「アムネスティ人権報告」(1993年12月)
   詩人67歳





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