2016年11月9日水曜日

「トランプ氏が勝てば、苦しむ中間層の支持によるものだといえる。いずれにせよ、この大統領選でグローバル化の神話は終わる」 10月の朝日地球会議で講演したエマニュエル・トッド氏は、今日の事態を予言していました。 — 朝日新聞 国際報道部 / 泡沫と思われた放言王 トランプの勝因は反グローバリズム (日刊ゲンダイ)  


■進むグローバル化、米も悲鳴 
講演「グローバリズムの危機」 
エマニュエル・トッド氏(仏人類学・歴史学者)

 グローバル化の終焉が近づいている。貿易が活発化し、人や資本の自由な移動を通じて各国が収斂(しゅうれん)されていく。そんな米国的な視点が出発点にあった。経済で世界を一つにする、というイデオロギーだ。私は何十年も前から批判してきたが、そんな夢が終わりつつある。グローバル化を発展させてきた米国と英国の危機によって。

 英国は、欧州連合(EU)離脱で、移民の流入を制限することにした。国家への回帰だ。

 米大統領選に目を向けよう。現在、デタラメな共和党のトランプ氏と、嫌われ者の民主党のクリントン氏が、愚かしいキャンペーンを続けている。トランプ氏は移民制御と自由貿易の拒否を打ち出した。こうした反グローバルな問題設定に支持者が熱狂している。

 米国自体が、グローバル化、新自由主義に耐えられなくなっている。昨年、米メディアが報じた人口動態のデータによると、45~54歳の白人の死亡率の上昇が明らかになった。自殺や麻薬、肥満によるものだ。一部の人たちが不安にさいなまれ、生きていくことに耐えられなくなっているのだ。

 民主主義の基盤であるはずの教育によって、社会の階層化が進んでいる。高等教育の修了者の死亡率は下がっているのにもかかわらず、中間層の死亡率は停滞している。高等教育を修了し、ハイパー個人主義的な人口の3分の1の人々と、他の人々が分裂していく。

 大統領選を報じるメディアを見ると、トランプ氏の支持層は学歴が低く、読み書きもできないとみなされている。だが、それはエリートの見方だ。彼の支持層は中間層なのだ。社会の分断や個人主義に対する反乱が起きている。私はよく「予言者だ」と言われるが、これは予測していなかった。

 メディアはトランプ氏を「ウソつきだ」とこきおろす。だが社会学的に見れば、クリントン氏こそウソつきだ。彼女は、候補者指名受諾の際、「世界が米国を必要としている」と演説した。だがそんな現実はない。むしろトランプ氏の「米国は世界に尊敬されていない、米国は苦しんでいる」という言葉の方が真実だ

 断っておくが、私はトランプ支持者ではない。米国に滞在した時には、ラスベガスのトランプホテルにも泊まってみたが、いいとは思わなかった(笑い)。だが、クリントン氏はじんましんが出るほど嫌いだ。帝国主義的で新自由主義的なリーダーだ。

 トランプ氏が勝てば、苦しむ中間層の支持によるものだといえる。いずれにせよ、この大統領選でグローバル化の神話は終わり、国家回帰に拍車がかかるだろう

 だがグローバル化の崩壊は悪いことばかりではない。人間について、経済という狭いビジョンだけにとらわれず、より政治的、知的な面に光が当たることにもなる。

     *

 Emmanuel Todd 1951年生まれ。家族構造や人口動態の分析をもとにした政治・経済研究で、ソ連崩壊や米国の衰退などを予言。「グローバリズム以後」(朝日新書)が近く刊行。











0 件のコメント:

コメントを投稿