2016年1月31日日曜日

窓  (茨木のり子)

京都 鴨川 2015-12-31
*
窓      茨木のり子

   1

輝く額縁

黒いカーテンをひくいわれもなく
灯りを細めるいわれもない

うなじの細い子供や
すがすがしい眉の少女が
水族館の小魚のように
ひらひらと 窓をよぎる

海のものとも
山のものともわからぬ者らが
なにやら一心不乱になっているが
行きずりの窓に
ちらりと見えるのはいい・・・

道ばたの暗闇で
ひやかしの口笛が
ピイと鳴る

あれは私の今日のお祈り

   2

烏たちは鳥の唄をうたい
花々は黙って花の香気を薫らせる
どうして人間だけが
人間の唄をうまく唄えず
ぎくしゃくしてしまうのだろう
恋をするような しないような
喧嘩をするような しないような
新しい星を飛ばすような 飛ばさないような

大都会のてっぺんから覗くと
人間はみんな囚人であるらしいことが
よくわかる
もっとみずみずしいもののことを
憶いなから
若い兄弟はぼんやり立っている

   
       第二詩集『見えない配達夫』(1958年、飯塚書店)所収


どうして人間だけが、自然な、みずみずしい唄をうたえないのだろうか。

どうして自由に、のびのびと振舞うことが出来ないのだろうか。

どっちつかずな生き方、不自由な生き方、それでいいのだろうか。

若い兄弟は窓のそばで、そんなことを考えてぼんやり立っている。






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