2011年11月24日木曜日

高橋源一郎 「朝日新聞」論壇時評(11月24日) 老人の主張 暮らしを変えよう 時代と戦おう

東京 北の丸公園(2011-11-22)
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高橋源一郎 「朝日新聞」論壇時評(11月24日) 老人の主張 暮らしを変えよう 時代と戦おう
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①英語版Stephane Hessel 『Time for Outrage!』(ステファン・エセル『憤れ!』)

著者ステファン・エセルは、戦争中はレジスタンスに所属、戦後は外交官として国連で活躍した人という。
そのエセルが「遺言」のように「若者」たちに語りかける。

「半世紀以上前、私たちは、不正に対して戦いました。

世紀を越えていま、世界はまた、経済格差や様々な差別に苦悶しています。

青年諸君、どうせなにもできやしないんだ、と諦めないでください。

あなたたちをダメにしようとする全てと戦ってください。

これからの時代を作るのはあなたたち自身なのです」
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②藤原章生「『地中海から時代が変わる』か」(世界12月号)

著者は、

「国がどうなろうが、知った事ではない」とストを繰り返すギリシャ人たちを豊饒で無茶苦茶な人たち」と呼ぶ。
いったいどうしてそんなことをするのか。
彼は、76歳の監督テオ・アンゲロブロスに疑問をぶつける。

監督は自らの生涯を振り返りつつ「いまは、戦争と比べても最悪の時代だ」と答える。

「長く西欧社会は、ギリシャも含め、本当の繁栄を手にしたと信じてきた。
だが、突如それは違うと気づいた・・・。

問題はファイナンス(金融)が政治にも倫理にも美学にも、我々の全てに影響を与えていることだ。

これを取り払わなくてはならない。
扉を開こう。
それが唯一の解決策だ」

「扉を開こう」とは、「経済が全てに優先する、いまの暮らしを変えよう」ということなのである。
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③「通販生活 秋冬号」カタログハウス刊

この秋、もっとも充実した「論壇」誌「通販生治 秋冬号」)ではないか。
「えっ?」と思われるかも。
だって通販専門のカタログ雑誌なんだから。

けれど、日本地図の上を原発マークがひしめく表紙や、そこに重ねられた「一日も早く 原発国民投票を。」という活字を見ていると、なんの雑誌だかわからなくなってくるだろう。

中身もとびきりだ。
表紙をめくると、いきなり22年前の特集記事が再掲載されている。
そこでは、菅直人を相手に女性たちが「原発をつぎの選挙の争点にしてください」と申し込んでいるのである。
先見の明がありすぎだ。

内容もたっぷり。
「原発国民投票のための勉強」では飯田哲也を筆頭として専門家がレクチャーを繰り広げ、河野太郎()や原子炉設計者の後藤政志()が、原発震災について語る。

その一方で「震災報道の影で忘れかけていた6つの問題」として沖縄・普天間問題から秋葉原無差別殺傷事件までを論じている。

いや、そればかりか「日本のエセル」、今年96歳反骨のジャーナリストむのたけじのインタビューまで載っている()。

まるで論壇誌みたい。
・・・(略)・・・」
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④「落合恵子の深呼吸対談」(通販生活秋冬号)
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⑤連載「人生の失敗」く取材・文は溝口敦〉(同) 
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⑥「私の人生を変えたあの人の言葉」(同)
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⑦SIGHT49号(ロツキング・オン刊)

「リベラルに世界を読む」を標榜する雑誌「SIGHT」の今季の特集は「私たちは、原発を止めるには日本を変えなければならないと思っています。」と名付けられている。

内容に不明確なところはなく、江田憲司が「政治と原発」を、古賀茂明が「官僚と原発」を、震災以降日本では「民主主義が成熟していない」と痛感した坂本龍一が「日本人と原発」について語っている。

ほとんどすべてがインタビューで構成されているため、中身はやや粗く感じられるかもしれない。
だが、この雑誌もまた、目指すところは、いわゆる論壇誌と同じではない。
・・・(略)・・・」
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編集部が選ぶ注目の論考

「科学に問いかけることはできるが、科学では答えられない問題」の領域をトランスサイエンスという。
鷲田清一「トランスサイエンス時代の科学者の責任」(科学11月号)は、原発が、専門家だけでは答えられない社会的な価値の選択を迫っているとし、「科学者は、専門分野でのイノベーションだけでなく、社会全体でなすそうした判断にこそ寄与しなければならない」と訴えた。

開沼博「『忘却』へ抗い」(atプラス10号)は、沖縄の基地問題への関心と脱原発運動を比較し、「歴史を踏まえれば、今熱狂しているとしても、おそらくまたその『忘却』へと向かうだけではないか」と警鐘を鳴らす。

原発輸出を特集したインパクション182号。鈴木真奈美「原発輸出の構造と脱原発の展望」は、国内での原発新設が難しくなり、原子力産業と技術を維持する延命策が原発輸出だと指摘する。

・・・(略)・・・
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ところで「通販生活」については、11月23日「朝日新聞」掲載の
天野祐吉の洒脱なコラム「CM天気図」でも取り扱われている。

「こういうテレビCM、見た?
黒い画面に白い文字の文章があらわれ、それを読む大滝秀治さんの声が流れる。

「原発、いつ、やめるのか、それともいつ、再開するのか。
それを決めるのは、電力会社でも役所でも政治家でもなくて、私たち国民一人一人。
通販生活秋冬号の巻頭特集は、『原発国民投票』」

見た人はいない。
だってテレビに流れてないんだから。

カタログハウスがそういうCMを作ったんだけど、テレビ局に放送を断られたんだって。

・・・(略)・・・」
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天野さんは、テレビ局が拒否したのは「意見広告」だからと、控えめに皮肉っておられるが、
実際は、原発タブーだろう。
大口スポンサー、電力会社はじめ原発ムラとの取引が危なくなるからネ。

視聴者なんかもっとホッタラカシだ。
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高橋源一郎「論壇時評」
1.6月30日分
2.8月25日分
3.9月29日分
4.10月27日分
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5.2012年4月26日分
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