2013年10月9日水曜日

TPP交渉/「聖域」崩す二枚舌許されぬ(河北新報社説) 「また、二枚舌か」。農産物の貿易自由化で何度も煮え湯を飲まされてきた農業関係者は、そう受け止めたに違いない。・・・

河北新報 社説 
TPP交渉/「聖域」崩す二枚舌許されぬ

 「また、二枚舌か」。農産物の貿易自由化で何度も煮え湯を飲まされてきた農業関係者は、そう受け止めたに違いない。

 環太平洋連携協定(TPP)交渉で、コメを含む五つの重要農産品について、政府・自民党は関税を撤廃するかどうかを検討するという。

 関税撤廃の例外を意味する「聖域」として死守すると約束したのではなかったか。突然の方針転換は国民を欺く言動と言わざるを得ず、容認できない。

 交渉は難航している。きのう、インドネシアであった参加12カ国の首脳会合が発表した声明からもそのことはうかがえる。

 妥結に向け主導力発揮を狙ったオバマ米大統領が欠席したことも響き、当初見込まれた「大筋合意」には至らず、年内妥結に向けた努力を確認するだけにとどまった。米主導に対するアジア新興国の反発は激しく、越年するとの見方が強い。

 7月に交渉に参加した日本は関税をめぐる協議にしても、2国間で関税を撤廃する品目リストを交換、話し合いの緒についたばかりだ。急ぐ必要はない。

 聖域に自ら切り込む姿勢を示し、難航する交渉の主導権を握るための方針転換だとしても、虎の子といえる「カード」の中の1枚を、いま切ることが得策なのかどうか。この譲歩によって貿易上、投資上のどんな利益を得ようとするのかも不明だ。

 さらなる譲歩を迫られた時はどう対応するのか。交渉の進め方から言っても、甚だ疑問だ。

 聖域死守を前提に、交渉戦略を練り直すべきだ。

 五つの農産品(コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、甘味資源作物)は、コメなら、玄米や精米に加え米粉や団子といった加工品・調整品を含め58品目というように、関税の分類から言えば合わせて586品目に上る。

 自民党は、このうち輸入量が少なく、生産者に対する影響が限定的な加工品や調整品について、「品目」レベルで関税撤廃を検討するとみられる。

 ただ、加工品にしろ、幾つかの食品をまぜ合わせた調整品にしろ、いま輸入量が少ないからといって、関税がゼロとなれば今後どうなるかは分からない。

 加工品は地域の食品加工業者を圧迫しかねない。輸出する側から言えば、例えばコメの調整品が開放されれば、それに特化してコメの輸出量を伸ばすことができる。国内での限られたパイを考えれば、生産者に少なからぬ影響が及ぶ。

 「アリの一穴」になる恐れがある。だからこそ、政府はこれまで586品目をそっくり守ってきたのではないのか。

 関税撤廃の検討方針について撤回を求めたい。できないのであれば、少なくとも交渉の現状と方針転換に至った理由を丁寧に国民に説明するべきだ。

 安倍晋三首相はTPP参加表明以降、「日本の農業を守る」と繰り返してきた。どう守るのか。いま、そのことが問われている。理解と納得が得られなければ、交渉が妥結したとしても国民には受け入れられまい。

2013年10月09日水曜日

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