2016年12月4日日曜日

「天皇の退位 特例法対応は憲法違反」 元内閣法制局参事官 鎮西迪雄(『朝日新聞』2016-12-03私の視点) ; 憲法第2条は、「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と明記している。...

天皇の退位 特例法対応は憲法違反 
元内閣法制局参事官 鎮西迪雄(ちんぜいみちお)
(『朝日新聞』2016-12-03私の視点)

 天皇の退位をめぐって、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」で検討されており、専門家へのヒアリングも行われた。

 報道によれば、「政府は今の天皇陛下に限って退位を可能とする特例法を軸に法整備を検討している」(朝日新聞11月15日付朝刊)とされている。
しかし特例法による法整備について、憲法違反ではないかという疑義が、政府、法律学者、法曹関係者、ヒアリング対象の専門家、報道機関から提起されたとはあまり聞こえてこない。
かつて内閣法制局参事官の職にあった筆者には、不思議なことに思えてならない。

 憲法第2条は、「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と明記している。
天皇の退位は、皇室典範の改正によってのみ可能なのであって、特例法その他の法律による対応は明白な憲法違反であることに議論の余地はない。

 法体系上は、皇室典範も法律として位置づけられるが、皇位の継承、摂政の設置について憲法による直接の委任を受けた特別の法律である。
憲法で、下位法令を固有名詞で引用するのは極めて異例だ。
特例法を含め、他の法律では代替できない。
憲法も、第4条第2項では「天皇は、法律の定めるところにより、その国事に関する行為を委任することができる」、第5条では「皇室典範の定めるところにより摂政を置くときは」とするなど、明白に書き分けている。

 このように自明なことがなぜ政府内でチェックされていないのか。
「恒久措置が皇室典範の改正であり、現天皇に限っての特例措置は特例法だ」という思い込みや、憲法と皇室典範の特別な関係への無理解があるのではないかと考えざるをえない。
当否はさておき、退位を現天皇に限っての特例措置とするのであれば、皇室典範の付則に条項を追加するという改正で対応するのが、憲法第2条の解釈として当然のことである。

 天皇の退位については、恒久措置とするか、特例措置とするかにかかわらず、憲法上、皇室典範の改正以外の選択肢はあり得ない。
特例法による法整備は選択肢になり得ないのである。

 最後に、一国民としての考えを述べたい。
8月の「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」で、天皇が直接の表現は慎重に避けながら、可及的すみやかな退位の意向を示された。
そのことに圧倒的多数の国民が共感し、天皇のお気持ちに沿った対応を望んでいることは、疑いの余地がない。
政府及び関係者のとるべき対応の方向は、この一点につきると考える。


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