原武史 政治学者
昨日発売の『文藝春秋』によれば、2005年の有識者会議の報告書で養子案が一蹴された背景には、旧皇族の「復帰」に賛成しない平成の天皇(現上皇)の意思があった。たとえ保守派が養子案を強く主張しても、天皇自身の強い意思がそれを押し返してきたことになる。
確かに現天皇も「国民の理解が得られるものとなることを望む」と発言しているということは、養子案に懸念をもっているようにも読み取れる。『文藝春秋』もそのように解釈している。しかし2021年の有識者会議の報告書で2005年に一蹴されたはずの養子案が復活してきた一因として、平成から令和への代替わりがあったことは否定できないだろう。
現天皇は平成の天皇に比べて、憲法に抵触しかねない「お気持ち」を表明することには慎重になっているように見える。露骨に本心を表明すれば憲法違反になるし、かと言って何も表明しないままではますます「国民の理解」から遠のく方向に事態が進行してしまう。天皇自身も苦悶しているのではなかろうか。
河西秀哉 名古屋大学教授=皇室・近現代史
ギリギリの範囲で、天皇が自身の見解を述べたものと考えます。
原先生が天皇は「苦悶している」と評価されていますが、私もそのとおりだと思います。自らの発言が、制度設計について影響を与えることは、象徴天皇という立場上、困難です。しかし、この発言を読むと、現状の政治が進めている方向性は、「国民の理解」が未だ得られていないと感じていることが読み取れます。
しかも、「国民と苦楽を共にすること」を強調したのは、男系の血で継続させるような象徴天皇のあり方ではなく、平成以降の天皇・皇族のあり方、具体的に言えば国民に寄り添う自分たちの活動こそ、ふさわしいと考えていることになります。
こう天皇に言わせてしまった政治の責任は大きいと思います。普段からコミュニケーションを取っていれば、こういった発言は出なかったのではないでしょうか。