2013年5月19日日曜日

韓国若者就職事情

読売新聞
韓国若者就職事情
ソウル支局長 豊浦潤一

 ソウルで飲食店に入ると、従業員が大卒で留学経験もあるといったケースは珍しくない。

 学歴信仰が強く、8割以上が大学に進学するものの、企業の就職先は限られているためだ。昨年9月にソウルに赴任して真っ先に感じた韓国社会のゆがみの一つだ。

大卒の就職率は56・2%

 大企業がもうけを外国の工場建設などに回し、韓国国内の雇用創出につながりにくい事情が背景にある。韓国政府によると、大卒の就職率は56・2%(2012年度)にとどまり、非正規労働者が全体の3分の1に上る。日本にも共通する青年の失業問題に、韓国社会は答えを出せるだろうか。

 5月2日、ソウル市九老区で開かれた地元中小企業の就職説明会。

 「大学を卒業して5年がたったけど、まだぶらぶらしている」

 参加したソウルの無職金真英さん(26)は消え入るような声で話した。大学在学中から10社以上に履歴書を送ったものの、面接までたどり着いたのはわずか2社。いずれも採用されなかった。卒業後もウェブデザイナーの仕事を探しているが、「労働市場全体が悪い中でみな苦しんでいる。仕方がない」とあきらめムードが漂う。


地方警察官倍率500倍

 就職先の少ない地方はもっと深刻だ。

 南東部・慶尚南道密陽市出身のソン・ウンスクさん(23)は、大邱テグ市の短大在学中に地方警察官の任官試験を受けたが、倍率500倍の難関に阻まれてしまった。就職のための「スペック(語学などの能力基準)作り」のため、ソウルに上京し、病院とビアホールでアルバイトしながら英語塾に通う。家賃を浮かすため10平方メートル足らずのワンルームに友人と2人で暮らす。布団を並べると寝返りも打てないほどだ。

 今はアフリカなどで貧困支援に取り組む夢を追うが、その募集はごくわずか。「英語の勉強と貯金を兼ねて豪州にワーキングホリデーに行こうかな」と揺れ動く心境を語った。

朴政権が「青年特別委員会」を発足

 昨年12月の大統領選に出馬したソウル大元教授の安哲秀アンチョルス氏(現国会議員)は、こうした行き場のない若者の怒りの受け皿となって旋風を巻き起こした。朴槿恵パク・クネ政権も、歴代政権で初めて青年が抱える問題に専従で取り組む政府組織「青年特別委員会」を発足させた。

 青年が抱える問題を現場に出向いて聴取し、政策を立案するとともに、各地に「青年支援センター」(仮称)を設置し、学校では教えない創造力のある人材を育成しようとしている。同委員会は5月、ソウルの事務所で大企業の担当者と会議を開き、「スペック」に偏らない採用のあり方について議論した。同委員会の担当者は、「企業側も、学歴だけでなく、問題解決能力のある人材を求めていることがわかった」と話す。

詰め込み教育と学歴偏重採用を脱せるか

 韓国人ほど、勉学と自分磨きに熱心な国民は珍しい。韓国社会が、詰め込み教育と学歴偏重採用を脱し、ソニーのウォークマンやトヨタのプリウスといった技術革新を起こす人材を育成できるようになれば、日本の産業界にとっても、今以上に恐るべきライバルとなることは間違いない。

(2013年5月13日  読売新聞)

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