2014年9月17日水曜日

【社説】 吉田調書 検証はまだ足りない (東京新聞) : 「考えてみてほしい。政府にしろ、国会にしろ、事故原因を十分究明できていない。福島の事故原因が定かでないのに、どうして原発の安全を判断できるというのだろう。」

東京新聞
【社説】 吉田調書 検証はまだ足りない    
2014年9月13日

 3・11当時の福島第一原発所長、故・吉田昌郎氏ら十九人の聴取記録が公開された。極限状況の現場に踏みとどまった吉田氏は、事故の検証がまだ足りないと、警鐘を鳴らしているのではないか。

 「絶望していました」「イメージは東日本壊滅ですよ」-。

 公開された政府の事故調査・検証委員会の調書に詰まった現場指揮官の肉声からは、事故後三年半が過ぎてなお、福島原発事故発生当初の混乱と恐怖が生々しく伝わってくる。事態の重大さや原発管理の難しさなどをあらためて実感させる貴重な証言だ。

 福島第一原発の所長になる前、吉田氏は本店の原子力設備管理部長として、地震や津波対策を考える立場にあった。

 証言からは現場の状況だけでなく、東電の効率重視、安全軽視の姿勢もうかがえる。

 事故以前、福島第一原発を最大一五・七メートルの津波が襲う恐れがあると東電内部の試算が出た。ところが社の判断は従来通り、六・一メートルのままだった。吉田氏も「そんなのって来るの」という認識だった。

 海水配管が腐食して、地下の非常用発電機が水没するという事件もあった。吉田氏は「古いプラント、一回できたものを直すというのはなかなか。非常に難しいし、お金もかかるという感覚です」と振り返る。

 非常時の指揮官として、吉田氏は最善を尽くした人だろう。しかし、自らの反省点も数多く吐露している。

 公表を機に、もう一度さまざまな角度からその中身を精査して、教訓をさらに搾り出すべきだ。

 電力会社や政府は、原発の再稼働を急いでいる。

 福島事故の反省を踏まえて発足したはずの原子力規制委員会は、政府に同調するかのように多くの疑問を残したままで、九州電力川内原発1、2号機の再稼働を認める判断をした。

 考えてみてほしい。政府にしろ、国会にしろ、事故原因を十分究明できていない。福島の事故原因が定かでないのに、どうして原発の安全を判断できるというのだろう。

 事情聴取の対象は政府事故調だけで七百七十二人。拙速に再稼働を進める前に、今回公開された十九人以外の調書も可能な限り公開し、内外の機関や専門家、国民の議論にさらして、より真相に近づく努力を続けるべきである。

 吉田氏も、それを望んでいるはずだ。


0 件のコメント: