東京新聞
金融緩和で二極化 米でも 導入6年中間層恩恵なし
2014年12月4日 朝刊
日銀の金融緩和政策による円安と株高が富裕層の資産を膨らませる一方で、物価上昇で中低所得者には打撃を与え、貧富の二極化をもたらしていることが、衆院選の各党の大きな論争テーマとなっている。二〇〇八年のリーマン・ショック以後、いち早く金融の大幅緩和を実施した米国でも、深刻な所得格差を招いたことが分かっている。米国の現実は日本の経済政策にも教訓を与えそうだ。 (ワシントン・斉場保伸)
「格差は過去百年で最も拡大してしまった」
米国の中央銀行、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は十月に行った講演で、米国社会の変化について懸念を表明した。中間層の活力が削がれれば、長い目で見て米国経済の弱体化を招くからにほかならない。
大量の緩和マネーが株式市場に流れ込んだ結果、米国の株価は大きく上昇。米国の個人の金融資産の中でも株式の残高は〇九年の七兆二千五百億ドル(約八百五十五兆円)から一四年六月末には十三兆三千億ドル(千五百六十九兆円)に拡大。
この結果、投資用不動産なども合わせて、資産格差が急速に拡大、カナダ・ロイヤル銀行の推計では百万ドル(約一億一千八百万円)以上の資産を持つ富裕層の資産は〇九年から一三年までに十三兆ドル(約千五百兆円)も膨らんだ。所得も、仏経済学者、トマ・ピケティ教授らの研究グループによれば、一二年に上位5%にすべての所得の38%が集中し過去最高になっている(日本は一〇年時点で25%)。
これに対して、中間層の年間所得は五万ドル(五百九十万円)近辺で伸び悩んでおり、株価の上昇などの景気指標の回復をそのまま実感できていない。先行きの経済に不安の残る状況で企業は低い金利で調達できる資金を自社株買いや株式投資に回してしまい、従業員の賃上げや正規雇用の拡大に振り向けて来なかった。
景気刺激策の恩恵を受けられない貧困層も増加。最低限の生活費を稼げない貧困層が人口に占める割合は〇三年ごろは12%だったが、金融緩和後も15%前後と一九七〇年代以降で最も高い水準に高止まりしたままだ。学齢期の子どもが貧困などの理由で自宅に住めずホームレス保護施設などから通学している数は、〇七年度に七十九万人だったのが一三年度には百二十四万人にまで拡大している。
米国を経済危機からテコ入れするのには効果があったとされる金融緩和。だが、導入後六年たっても中低所得層に「したたり落ちる」効果は薄く、所得や資産の格差を拡大させたことが浮き彫りになっている。
<米国の金融緩和策> 2008年のリーマン・ショック後の経済てこ入れのために、当時のバーナンキFRB議長が同年秋以降銀行から国債などを大量に買う「量的緩和」と呼ばれる策を開始。総額4兆ドル(470兆円)近い資金を市場に供給した。失業率低下などを受け今年10月末に終了した。
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