2015年3月19日木曜日

安保をただす 与党協議 国民置き去りの性急さ (信毎WEB) : 政府の目指すままに法整備が実現すれば、自衛隊は他国並みの軍隊に一段と近づく。前のめりの提案が相次ぐ中、集団的自衛権の問題はかすんだ印象すらある。

信毎Web
安保をただす 与党協議 国民置き去りの性急さ
03月18日(水

 新たな安全保障法制をめぐる自民、公明両党の協議が、ヤマ場に差し掛かっている。法整備の具体的な方向性について週内にも合意する見通しだ。

 国民を守るため―。そう強調されてきた安保法制は、法案作りの段階で様相が一変した。政府は集団的自衛権の行使容認に加え、他国軍支援など自衛隊の海外活動を急拡大しようとしている。

 憲法9条の下、平和国家として歩んできた戦後日本の重大な岐路だ。国民を置き去りにして先を急いではならない。

   <新たな提案が次々に>

 自衛隊の活動への制約をできる限り取り払いたい―。与党協議で浮かび上がったのは、そんな政府の意思だ。次々に新たな提案が飛び出している。

 後方支援についての法整備は特に見過ごせない。

 朝鮮半島有事を想定して米軍への支援を定めた周辺事態法は抜本改正を考えている。「周辺」の文字を削り、世界中どこでも支援を可能にする。オーストラリア軍など米軍以外に対象を広げ、弾薬の提供も解禁する。これまでとは全く違った法律になる。

 これとは別に自衛隊を随時、海外に派遣できる恒久法の制定も打ち出した。派遣要請に速やかに応える狙いだ。従来はテロ対策特別措置法など必要に応じて時限法を定めてきた。恒久法を作ることでその都度、国会で法案を審議する手間が省ける。

 政府の目指すままに法整備が実現すれば、自衛隊は他国並みの軍隊に一段と近づく。前のめりの提案が相次ぐ中、集団的自衛権の問題はかすんだ印象すらある。

   <閣議決定を問い直せ>

 「あらゆる事態に切れ目のない対応を可能とすることが重要」と安倍晋三首相は言う。政府の判断でいつでも、どこでも自衛隊が活動できるようにする―。つまりはそういうことなのか。

 与党協議では、さまざまな「事態」が乱立する分かりにくい状況も生じている。

 いまは、個別的自衛権に関わる武力攻撃事態や武力攻撃予測事態がある。同じく既存の周辺事態は地理的な制約を撤廃して「重要影響事態」に改める。

 これに加え、密接な関係にある他国への攻撃に対して集団的自衛権を行使するための「新事態」を新たに設ける。

 それぞれの事態は、どんな状況を指すのか。線引きがはっきりしない。曖昧さを残す法律ができれば、政府の解釈次第で自衛隊を動かせることになる。

 自衛隊が米軍などを後方支援する「重要影響事態」が、そのまま集団的自衛権行使の「新事態」につながることはないのか。「切れ目のない対応」という言葉に、そんな懸念も浮かぶ。

 ただでさえ、国民になじみの薄い安保政策で、新たな考え方が矢継ぎ早に打ち出されている。首相は「国民の理解を得る努力を続ける」と述べてきた。実態は懸け離れている。

 本をただせば、昨年7月の閣議決定に問題がある。

 議論が生煮えのまま、与党の合意を急いだ。集団的自衛権は事例を詰めることなく、自公それぞれが都合よく解釈する形で決着している。後方支援についての突っ込んだ議論は聞かれなかった。

 政府が目指す安保法制は、自国防衛のほか、他国軍支援や国連平和維持活動(PKO)など多岐にわたる。本来なら一つ一つ国民の意見を聞きながら熟議すべき問題だ。ひとくくりに成立させようというのが、そもそも荒っぽい。

 具体像が見えてくるにつれ、閣議決定への疑問が膨らむ。あらためて撤回を求める。

   <歯止めを論じる前に>

 安保法制に慎重姿勢を示してきた公明党は政府の提案を大筋で受け入れた。与党協議はいま、自衛隊の任務拡大にどう歯止めをかけるかが主眼になっている。

 それ以前に問わねばならないことがある。一つは、法整備の必要性だ。中国の海洋進出など安保環境は厳しさを増している。とはいえ、集団的自衛権で米軍と自衛隊の一体化を進めることが妥当なのか。軍拡競争を助長するようだとアジアの安定を損なう。

 国際社会の平和と安定に尽くすのは当然にしても、軍事に傾くことが日本にふさわしいとは思えない。自衛隊員が戦闘に巻き込まれたり、日本への敵意を生んだりすることが現実味を帯びる。非軍事の貢献こそ強めたい。

 もう一つは合憲性だ。集団的自衛権について政府は中東での武力行使も想定する。後方支援の拡大は憲法解釈上、許されないとしてきた「他国軍の武力行使との一体化」につながりかねない。これで憲法と相いれるのか。

 基本的な疑問に対して政府は納得のいく説明をしていない。このまま法整備を既定路線にすることは容認できない。




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