北の丸公園 2016-04-09
*伝説 茨木のり子
青春が美しい というのは
伝説である
からだは日々にみずみずしく増殖するのに
こころはひどい囚れびと 木偶の坊
青春はみにくく歪み へまだらけ
ちぎっては投げ ちぎっては投げ
どれが自分かわからない
残酷で 恥多い季節
そこを通ってきた私にはよく見える
青春は
自分を探しに出る旅の 長い旅の
靴ひも結ぶ 暗い未明のおののきだ
ようやくこころが自在さを得る頃には
からだは がくりと 衰えてくる
人生の秤はいやになるほど
よくバランスがとれている
失ったものに人々は敏感だから
思わず知らず叫んでしまう
<青か春は 美しかりし!>と
『茨木のり子詩集(現代詩文庫20)』 (1969年3月 思潮社刊)
詩人43歳
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