2016年1月19日火曜日

通らなければ  (茨木のり子)

皇居東御苑 2016-01-19
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通らなければ        茨木のり子


幼い頃
わたしは勇気りんりんの子供だった
大人になったら
こわいものなしになる筈だった
気づいたら
やたらに こわいものだらけになっていて
まったく
こんな筈じゃなかったな
よくものが見えるようになったから
というのは うぬぼれ
人を愛するなんてことも何時(いつ)のまにやら
覚えてしまって
臆病風はどうやら そのあたりからも
吹いてくるらしい
通らなければならないトンネルならば
さまざまな怖(おそ)れを十分に味わいつくして行こう
いつか ぽんとうの
勇気凛凛(りんりん)になれるかしら
子供のときとは まるで違った


             1969年4月「いずみ」掲載
             『茨木のり子全詩集』<スクラップブック>より




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