2016年5月11日水曜日

五月の風は (茨木のり子 「北海道新聞」1962年5月10日)

皇居東御苑 2015-05-07
*
五月の風は   茨木のり子


一年の歳月を耐えしのんでいたものが
いっせいに花ひらく眩しさ
五月の風は
なぜか私を羞恥にそめる
人間のつくるものは
鼻唄まじりどうしてこんなに雑なのだろう
ひとむらの
わすれなぐさの花のいろ
それさえ長い月日をかけて水色に咲きこぼれ
ちり紙のように使いすてた
わたしの一日一日は
薫風のなかにひらひらあらわれ
みっともなく照れている


   詩集未収録(「北海道新聞」1962年5月10日)
   詩人36歳


0 件のコメント: