政府は10月の月例経済報告で、前月に続き「景気は、このところ弱さもみられるが、穏やかな回復基調が続いている」との判断を示した。
しかし何か空しさを覚える。
実際、政府作成の景気指標を見ると、景気回復の形にはっていない。
景気判断の基礎となる「景気動向指数」の一致指数は、直近の8月で112.0。
これは直近でピークだった2014年3月の117.8を4.9%下回り、この2年余りの間、景気は縮小していたことを示している。
実質国内総生産(GDP)も、4~6月期は531.7兆円で、14年1~3月期をなお0.6%下回っている。
中でも個人消費はこの間4.4%も減少したままだ。
実際、バブル期を上回る利益を上げる企業や、日銀による年6兆円のETF(上場投資信託)買いで株高が維持されて潤う資産家に対し、一般家計は苦しい。
パートも含めた1人当たり平均の現金給与総額は前年同月と比べて横ばいで、預金に金利はつかず、年金は実質減少傾向だ。
家計収入が増えず、税負担、社会保険負担が増えるなかで、長生きリスクに対処するには、消費を抑え、貯蓄を増やすしかない。
消費が弱ければ企業の値上げも通らず、物価上昇目標はいつになっても実現できない。
さらに追加緩和となれば、年金運用が一層難しくなり、年金が損失を出せば、将来不安がさらに高まる悪循環となる。
GDPの約6割を占める個人消費が冷え込めばGDPは増えず、景気も良くならない。
今こそ「経世済民」の基本に立ち返り、将来不安の軽減を図る時だ。
若い人たちが当たり前の暮らしを積み上げていけるようにしていくことが、結局は景気対策になる。
(千)
『朝日新聞』2016-11-05
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