毎日新聞
はだしのゲン:英訳者の講演中止 東京の中学
広島での被爆体験を描いた故・中沢啓治さんの漫画「はだしのゲン」の英訳出版に尽力した米国人翻訳家、アラン・グリースンさん(62)=東京都杉並区=による生徒への講演を4日に予定していた同区立井荻中学校(赤荻千恵子校長)が、前日に急きょ中止したことが分かった。講演は別の講師に差し替えて行われた。グリースンさんは「『近ごろの事情』などと曖昧な説明を受けたが、圧力や自己検閲があったのか」と話している。
講演は「いのちの教育」と題し、「いのちについての考えを深め、自他のいのちを尊重する心を養う」のが目的だった。
グリースンさんは1977年から、複数の中沢さんの漫画作品の翻訳と米英での出版に尽力。2009年には、金沢市の主婦らによるグループが米国でゲン10巻を完訳出版した際も監修した。原爆関連では、広島県立広島第一高等女学校の生存者による文集「平和への祈り」英語版の翻訳・編集も担当した。
赤荻校長はグリースンさんに電話やメールで、「はだしのゲン」の英訳を通して伝えたかったこと▽心に残った言葉▽言葉選びで工夫した点--などを要望。グリースンさんは全校生徒約350人に約40分間話す予定だった。グリースンさんによると、講演依頼は約2カ月前にあり、準備を進めていたが、3日夕方に赤荻校長から電話で「中止する」と告げられたという。
グリースンさんは「私は『ゲン』の翻訳者の一人でしかないが、事務所近くの中学校の依頼だったので、光栄に思い引き受けた。松江市教委の閉架問題の影響なども聞いたが、校長は『社会の流れ』『近ごろの事情』『内部の決定』としか説明しない」と憤る。
取材に対し、赤荻校長は「都教委や区教委には相談していない。自分の判断」とした上で、「『はだしのゲン』は読んだことがない。生徒も勉強していないので興味が持てないと考えた。『はだしのゲン』に特化しないでほしいと伝えたら、断られた」と話した。
4日は元小学校長による「ことばの教育」に差し替え、「いのちに関する詩」を取り上げた。【松本博子】
2013年10月05日 07時37分
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