2015年12月15日火曜日
「さんたんたる鮟鱇(あんこう)」 (村野四郎 詩集『抽象の城』) : 顎(あご)を むざんに引っかけられ 逆さに吊りさげられた うすい膜の中の くったりした死 これは いかなるもののなれの果だ
さんたんたる鮟鱇(あんこう) 村野四郎
へんな運命が私をみつめている リルケ
顎(あご)を むざんに引っかけられ
逆さに吊りさげられた
うすい膜の中の
くったりした死
これは いかなるもののなれの果だ
見なれない手が寄ってきて
切りさいなみ 削りとり
だんだん稀薄になっていく この実在
しまいには うすい膜も切りさられ
もう 鮟鱇はどこにも無い
惨劇は終っている
なんにも残らない廂(ひさし)から
まだ ぶら下っているのは
大きく曲った鉄の鉤(かぎ)だけだ
詩集『抽象の城』(宝文館、1954年9月)
アンコウ。
殆ど見たことも食べたことがないので、よくわからない。
外見はかなりグロテスク?
冬の味覚、珍味に属するのだろうか。
確か、ヌルヌルするので(「うすい膜」)、そのからだは吊され、身をそぎ落とす要領で調理される。
グロテスクな外見を見世物にするかの如く吊るされ、やがてなくなってしまうその「実在」。
作者・村野四郎は、鮟鱇は、「性鈍く、游ぐことは下手である。ヒゲの先を動かして小魚をおびきよせ、だまして食う」、「見るからに不倖せな生きものといった感じ」と説明し、「死さえ奪いさられてしまうこの悲劇は、現代のわれわれの状況の何かに酷似している」、「襲撃的なショックが、この詩のモチーフ」だと解説しているそうだ(『鑑賞現代詩3』(1962年))。
敗戦からまだ間もない時期の、鋭敏な詩人による、人間存在の「さんたんたる」状況を鮟鱇に仮託して表現したものだ。
さて、その人間存在の「さんたんたる」状況は、その後、どうなったろうか。
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