2015年10月14日水曜日

明治38年(1905)7月10日~30日 荒畑寒村(18)の第2次社会主義伝道行商(通信文「忘れられた谷中村」) 漱石、教師を続けるか小説家になるか迷う 小村寿太郎らニューヨーク着 幸徳秋水(35)出獄 『直言』第26号発行 森鴎外「新派長短歌研究成績報告書」 桂=タフト協定 樺太攻略   

ジュウガツザクラ 2015-10-08 皇居東御苑
*
明治38年(1905)
7月10日
・荒畑寒村(18)、第2次伝道行商出発。
この日草加。11日大相模村。12日西方村。14日上都賀郡谷中村で田中正造と面会。通信文「忘れられた谷中村」。16日佐野町。17日栃木村。18日鹿沼で車を預け西大葦村。巡査2人尾行。
19日足尾銅山に向う。午後3時、労働至誠会(長岡鶴造)入り。4日間滞在。
24日足尾~中善寺~日光。25日鹿沼に戻り、車を持って宇都宮。
26日市内小幡町の有限責任購買組合を訪問(会員160余、石川三四郎「消費組合の話」(平民文庫)が設立の契機)。27日氏家町。28日錫掛村。29日芦座町で鈴木秀男戦死を知る。30日午後鈴木秀男葬儀通知を受取り横浜に戻る(葬儀には間に合わず)。
第2次伝道行商は3週間で47冊のみ。
*
7月10日
・「萬朝報」、選挙権拡張を主張し、戦時下に積もった民衆の不満を疏通させるためにも「戦後経営の第一事業」としてこれを実行せよと論じる。
*
7月11日
・兵庫県の塩田人夫3,600人、特別手当の減額に反対し、ストライキ。
*
7月11日
・セオドア・ルーズベルト米大統領、日露和平交渉を提案。
*
7月12日
・厳谷一六(71)、没。
*
7月12日
・ロシア、ニコライ2世、講和主席全権大使に元蔵相ウィッテを任命。「大ロシア帝国の名誉を傷つけ、或は一片の償金、一握の領土を割譲することも許さず」と訓令。
*
7月13日
・デュボイス、トロッターら黒人運動指導者、ナイアガラに集り宣言発表。ナイアガラ運動を開始。
*
7月14日
・フランス、老廃者救助法制定。
*
7月15日
・この日付、漱石から門下生中川芳太郎宛ての手紙。
 「先達日本新聞がきて何でも時々かけといふから。僕もつくづく考へたね、毎日一欄書いて毎日十円もくれるなら学校を辞職して新聞屋になった方がいゝと。 」。
この頃、教師を続けるか小説家になるか迷う。
*
7月16日
・樺太南部ロシア軍、降伏。
*
7月19日
・午後8時30分、日本講和全権団、シアトル港外着。翌20日、入港。
*
7月19日
・ロシア、講和主席全権大使、ロシア発。
*
7月19日
・永井壮吉(荷風)、ワシントンの日本公使館に赴く。講和会議対応で多忙になった公使館で小使として働き始める。
*
7月20日
・三菱合資会社、神戸市和田岬に三菱神戸造船所開設。8月8日開渠式。
*
7月20日
・英インド総督ジョージ・カーゾン、ベンガル州分割令公布。
ベンガル州を東西分割。分割反対運動おこる。
*
7月22日
・ロシア全権ウィッテ、フランスのエリゼ宮でルーべ大統領・ルヴィエ首相と会見。外債募集または借款援助要請。フランス側は戦争継続のためなら資金援助は拒否。講和のための賠償金のためなら協力すると回答。
*
7月23日
・大阪アルカリ会社で賃上げ要求をしていた職工6人、技手を殴打したため拘引される。25日、120人が解雇に。
*
7月24日
・第13師団第26旅団(第51・52連隊)、樺太北部アレクサンドロフスクに無血上陸。
第3艦隊(片岡七郎中将)第6戦隊(東郷正路少将)は巡洋艦2・駆逐艦4隻で間宮海峡対岸の沿海州カストリー湾を武力偵察。湾内に侵入すると砲撃をうけたため、艦隊も応戦。やがて沈黙し、火薬庫を自爆させ退却。第6戦隊はここで撤収するが、ウラジオでは住民の避難が始まる。
*
7月24日
・ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世・ロシア皇帝ニコライ2世、ビョルケ密約(~24)、両国政府の反対により不成立。再度の露独同盟画策、フランスの参加拒否により失敗。
*
7月25日
・午前10時、小村寿太郎ら、ニューヨーク着。副全権高平小五郎駐米公使、金子堅太郎出迎え。
27日、小村全権・高平副全権、ルーズベルト大統領訪問。領土要求は樺太のみと伝える。
*
7月28日
・幸徳秋水(35)、出獄。
午前5時に巣鴨監獄前に同志が集合し秋水の出獄を迎える。
淀橋町柏木の寓居で休養
『平民新聞』第52号事件(「小学教師に告ぐ」)で禁錮5ヶ月となっていた。
さらに、第53号被告事件(『共産党宣言』)の控訴審は被告の幸徳が病気のため延期に延期を重ね、この時点でも決定を見ていない(第一審判決は幸徳、西川、堺、三被告に対する各80円の罰金刑)。

幸徳秋水と無政府主義
 幸徳は出獄直前から無政府主義に関心を惹かれはじめた。獄中から在桑港の友人アルバート・ジョンソンに宛てた書翰にも、「私は所謂『罪悪』ということについて深く考えるところがあり、結局現在の政府の組織、裁判所、法律、監獄が、実際、貧窮と罪悪とを誘導するものであると確く信じるようになりました……事実を申せば小生ははじめマルクス派の社会主義者として監獄に参りましたが出獄に際しては急進的なアナーキストとして立ち戻りました」と述べ、入獄という体験が、幸徳の国家権力の否定、無政府主義への思想的傾斜の原因になったことを語っている。
*
7月28日
・『直言』第26号発行(通常発行日の7月30日を秋水の出獄日である28日に繰り上げ、「幸徳秋水出獄歓迎号」として発行)
第一面に秋水の写真を囲んで炬火を掲げる天使の像を赤色で印刷し、下段の英文欄に「同志幸徳の出獄」と題し、「上掲の肖像は彼の智性と強い意志を示す鋭い限にも似ず、いかに痩せ細っているかを示すであろう。彼はこの長期間、獄中で下痢を患っていたが、しかし多くの英書を読み仏語を学び、そして今や多大の蓄項した知識と久しく保留していた精力とをもって、われらの運動に新しい刺戟を与うるために帰り来った」と記した。

堺利彦「僕の衷情」:
 「君の不在中、平民社が如何に其の重量を減じたか、『直言』の紙上が如何に落莫(らくばく)であったか・・・君の不在中に平民社と『直言』とに何事かあらせては、僕は実に居ても立ても居れぬのだ。然るに今兎に角、大過なくして茲に君の出獄を迎ふるを得た」歓喜の情を述べる。

荒畑寒村「忘れられた谷中村」:
 寒村が東北伝道行商の途次、足尾銅山鉱毒問題の中心地、栃木県谷中村に田中正造を訪問し壮烈な光景を目撃し、感奮して執筆した。
*
7月28日
・満州の戦地にある森鴎外(第二軍軍医部長)、妹の小金井喜美子に宛てて、「新派長短歌研究成績報告書」と題する戯文批評を書き送る。

(段落を付加した)

 「此頃の明星を見れば詩はわからないものとしてある。分らないとは特別の修養をせねばわからないと云ふことだとさ。(略)

 短詩から云うて見るが、譬へばこれまでの歌にない、機一髪、ハットおもふやうな処を巧者におさへてゐる。『春曙抄に伊勢をかさねてかさ足らぬ枕はやがて崩れけるかな』晶子。これは『恋ごろも』にある。おなじやうに品くだりらうがはしい嫌はあるがいかにも目前のさまをよく写したのが『小扇』にある。『そぞろなりや閨に筆よぶ夜半のうたなかば枕になかばをつまに』(略)以上晶子先生の事ばかしいふやうだが、跡は大ていあれの口まねだからね。

 次に長詩で一番ひねつたのは蒲原有明だ。詞をやや自在に使ふことを心得てゐる。(略)

 これと反対に一番ひねらないのは島崎藤村だ。国語は十分とはいへない。俗語が不調和につかはれてゐる。中にすなほで可なりなのが矢張り短いものにある。

 薄田泣菫は国語が丸でつかへぬ。『ゆく春』はよまうとするとふき出してしまふ。此頃出た『二十五絃』にも困る。神代の伝統をあんなに手広にとり出してよめるやうな詩にするにはあの百倍千倍の力量がいるのだ。あれを明星で批評を申上げるもおそれ多いやうにあがめてゐる人があるが、気がしれない。(略)

 前田林外。何か仏教のがはの雑書をのぞいたものと見える。

 岩野泡鳴。矢張り日本語にあかるくない。

 それから見ると与謝野鉄幹は流石家元だ。しかし今やうの事を七五で達者にやつてゐるといつか浄るりになつてゐるからをかしい。それから学者ぶつてあやしい事をいふにも困る。

 短歌、晶子にはかなはない。

 ここに一つをかしい事がある。それは此連中のごく若手に所謂新体詩の大家よりうまいのが出て来た事だ。石川啄木や平野万里がそれだ。平野は於菟坊と一しよにそだった久保だといふにはおどろいた。あれ等は泣菫なんぞより想像も豊富で国語もよく使ひこなしてゐる。大家先生しつかりせぬと子供にまけるやうだ。(略)」
*
7月29日
・桂=タフト協定成立。
ルーズベルト政権陸軍長官。米のフィリピン優越権と日本の朝鮮優越権(保護権の設定)。
8月7日、大統領は協定承認を日本に通告。
日本の韓国保護国化は、アメリカ(桂=タフト協定)、イギリス(8月12日第2回日英同盟)、ロシア(9月5日ポーツマス講和条約)に認められることになる。
*
7月30日
・樺太攻略。
樺太北部ロシア軍降伏。上陸以後24日間。死傷者なし。この月より、樺太民政長官が統治。
1907年4月樺太庁設置、初代長官は樺太守備隊楠瀬幸彦(陸軍大将)が兼務。
*
7月30日
・荒畑寒村、友人鈴木秀男の葬儀のため帰京。
*
7月30日
・講和問題同志連合会の大演説会。歌舞伎座。正午~午後7時。弁士15人、破談を主張。
*
7月30日
・バーゼルのシオニスト会議、1903年にバルフォア英首相が提唱したアフリカのウガンダをユダヤ人の祖国とする案を拒否。パレスチナの地を要求。
*
月末
・ハンガリー、内相クリシュト・ヨージェフと社会民主党指導部協定。警察の監視緩和、農業労働者の組織公認、選挙権拡大提案と組織労働者の政府支持。
*
*


0 件のコメント: