北海道新聞 社説
14年度政府予算案 増税して「ばらまき」とは(12月25日)
消費税が17年ぶりに増税される2014年度は、どこまで生活が苦しくなるのか。多くの国民は不安を募らせている。
きのう閣議決定された14年度政府予算案は、一般会計の総額が過去最大の95兆9千億円に達した。
中でも目立つのが公共事業費の膨張だ。道路、港湾などへのばらまきが横行し、かつての自民党政権に先祖返りしたかのようだ。
一方で、暮らしへの支援策は乏しい。消費税率の8%への引き上げに、年金や介護保険の負担増・給付減などが追い打ちをかけ、国民生活は大きく圧迫される。
財政が危機的な状況にある中で、メリハリのない予算編成というほかない。政府は「経済再生・デフレ脱却と財政健全化をあわせて目指す」と強調するが、いずれも掛け声倒れに終わりかねない。
膨張目立つ公共事業
安倍晋三首相は政府予算案の閣議決定を受け「全国津々浦々に景気のいい風を届けたい」と述べた。だが、その道筋は見えない。
最大の問題は、公共事業頼みであることだ。民主党政権下で4兆円台まで減った同事業費は、自民党の政権復帰後の13年度予算で再び増加に転じた。14年度は実質2%増の6兆円弱に膨らむ。
12、13年度は補正予算でも1兆円以上を計上した。公共事業は北海道などの地方では一定の景気の下支え効果があるのは確かだ。トンネル、橋などの老朽化対策も進めなければならない。
だが、族議員の歳出拡大への圧力は目に余った。群馬県の八ツ場(やんば)ダム本体の工事費は、5年ぶりに復活した。「国土強靱(きょうじん)化」の名の下で、イノシシなどの鳥獣被害防止策まで盛り込んだ。
自民党は民主党の高校授業料無償化などを「ばらまき」と批判したが、「人からコンクリートへ」逆戻りした旧来型のばらまきだ。
ここ1、2年は建設現場での人手不足や資材価格高騰で「使い残し」も急増している。大幅に絞り込み、効率化すべきだ。
ばらまきは他の分野でも目立つ。
防衛関係費も2年連続で増額した。中国の海洋進出などに備え、防衛・監視体制を強化する名目だ。離島防衛のため新型輸送機オスプレイ導入の調査費などを計上したが、周辺国との間で緊張を高めかねない。
また沖縄振興費を概算要求より上積みした背景には、沖縄県の米軍普天間飛行場(宜野湾市)移設に向けた同県名護市辺野古の埋め立て承認への協力を、沖縄県側から取り付ける取引材料にする思惑がある。
しかし、真に沖縄の負担軽減を考えるなら、県民の多くが希望する同飛行場の県外・国外移設を実現するのが筋だ。
社会保障は置き去り
予算編成の最大の焦点は、国と地方を合わせ5兆円に上る消費税増税分の使い道だった。自民党は今夏の参院選公約で「消費税は全額社会保障に使う」と明記していた。
ところが社会保障の新規施策に充てるのは、待機児童解消や難病対策などの5千億円にとどまる。生活保護費もほぼ横ばいで、夫婦と子の世帯では減額となる。
消費増税をめぐり民主、自民、公明の3党が合意した「社会保障と税の一体改革」はどこへ行ったのか。
賃金が上向かないままの増税は、暮らしを押しつぶしかねない。
民間の試算によると、夫婦と子ども2人の4人家族で年収が500万円の世帯では、14年度は13年度に比べ消費増税で約8万3千円、厚生年金保険料率上げで約9千円それぞれ負担が増す。
家計のデフレ脱却は一層遠のく。
アベノミクスの第3の矢となる成長戦略も、すっかり色あせた。
最先端医療の司令塔として日本版の国立衛生研究所(NIH)創設への予算を計上したが、「基礎研究がおろそかになる」との批判も強い。
リーマン・ショック後の地方向け景気対策(年1兆円)を3800億円減額するのも心配だ。首都圏などとの格差拡大を招くばかりだ。
展望見えぬ財政再建
財政状況は一段と厳しさを増す。7兆円近い税収増にもかかわらず、不要不急の歳出の削減に切り込めなかったためだ。
確かに基礎的財政収支(PB)の赤字額は5兆円余り縮小し、中期財政計画に定めた目標は達成する。
だが新規国債の発行額は13年度より減ったとはいえ、依然、41兆3千億円に上る。借換債の増大で発行総額は181兆円と過去最大に膨れ上がり、健全化にはほど遠い。
国債残高は14年度末に780兆円に達し、20年度にPBを黒字化する「国際公約」への展望も開けない。
日銀は大胆な金融緩和で新規国債の7割もの購入を続けている。実態は国の借金の肩代わりであり、国債の信認が低下し、国債価格が急落するリスクを抱えている。
増税で経済が失速すれば、財政破綻さえ現実味を帯びる。
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