2025年7月3日木曜日

大杉栄とその時代年表(544) 1904(明治37)年11月15日~20日 『平民新聞』第52号事件(「小学教師に告ぐ」)公判 1審判決 『平民新聞』発禁 幸徳・西川禁固5ヶ月 罰金50円 別に西川禁固2ヶ月 控訴 / 社会主義協会、結社禁止   

 

左から時計回りに幸徳秋水、堺利彦、西川光二郎、石川三四郎(1904年11月13日、平民社)

大杉栄とその時代年表(543) 1904(明治37)年11月13日~14日 「一個の怪物がヨーロッパを徘徊してゐる。すなはち共産主義の怪物である。古いヨーロッパのあらゆる權力は、この怪物を退治するために、神聖同盟を結んでゐる。ローマ法皇もツァールも、メッテルニヒもギゾウも、フランスの急進黨もドイツの探偵も。」(共産黨宣言 (堺利彦、幸徳秋水)共譯) より続く

1904(明治37)年

11月15日

横浜正金銀行、清国の遼陽に出張所設置。

11月15日

『平民新聞』第52号事件(「小学教師に告ぐ」)公判

19日、1審判決。「平民新聞」発禁、幸徳・西川禁固5ヶ月、罰金50円、別に西川禁固2ヶ月。控訴

安住検事の論告。

問題の社説「小学教師に告ぐ」は、国家は国家のためにその人民を教育しようとするが、人類としてこれを教育しようとは欲せず、一国の民を造ろうとは欲するが、世界の子を造ろうとは欲せず、小なる国家道徳を教えさせて大なる博愛道徳を斥ける。今日の教育制度は、人類を完全ならしめず却って不具ならしめると主張し、明らかにわが国体に反している。本論が私有財産、階級制度を否定しているのは明らかに憲法に違反し、国体を破壊し、朝憲を紊乱するものである。

西川の弁疏。

われわれの反対論者は「秋水枯川の一派を斬つて出陣の血祭りにせん」「非戦論者を斬れ」「平和論者を国外に放逐すべし」などと不穏な言を弄しているのだから、温順な社会主義者の口からでも時に激語の発せられることもあろうが、われわれの態度は『平民新聞』第一号に目的実現の手段を国法の範囲内に限ることを宣言した通りであって、われわれの議論はつねに民間の反対論者を的とし、決して勅語法令に対しているのではない

幸徳の弁論。

第一に、小なる道徳、大なる道徳云々の問題は目下世間に争われている倫理教育の主義に関する議論であって、政治論ということはできぬ。これらの議論はつねに大学においても政府においても研究され主張されているところで、朝憲紊乱、政体変更などとはいえない。

第二に、検事は本論を教育勅語に反するというが、教育勅語を単に忠孝道徳とのみ解するのは保守的思想家の勝手な解釈に過ぎない。真に教育勅語の趣意を貫かんと欲すれば、広く世界人類としての博愛的道徳を教ゆべきである。しかるに現状は如何、一銭の金も稼ぎ得ぬ小児に恤兵の献金を強い、課業を休ませ、徹夜をさせて停車場に万歳を叫ばせる。甚だしきは戦争ごつこで殺されるのもあれば、某中将の子は露探だというて学校をイジメ出された。これらは全く勅語の趣旨を曲解し、国家忠孝ということのみを見て大なる博愛道徳を見ざるよりして生ずる弊害である。

第三に、非戦論を以て宣戦の詔勅に反するというが、しかし何人も多くの人命を損じ、多くの金を費やすべき戦争を願わしきもの、謳歌すべきものといい得る者はあるまい。今回、万国社会党が決議したところも戦争の惨害を認めて速かに平和の克復に尽力すべしというにあり、詔勅の終りに「速かに平和を永遠に克復」せんことを望まれたのと異ならない。

第四に、資本私有制度の廃止は憲法の所有権保証に抵触し、憲法を紛更するものというけれども、しかし憲法は同時に公益のために必要なる処分は法律を以て定めると規定し、すでに多くの土地や資本は法律の手によって国家社会に移されている。将来、普通選挙が行なわれ、多数の社会主義議員が公益のために法律を改廃制定して生産機関を国有となすことは、極めて合法的であって何等の不都合もないのである。

最後に、社会主義者が廃止を主張するのは貧富の階級であるけれども、かりに華族のごとき階級の廃止を主張するとしても、維新改革の際には一切の階級が廃止されて四民平等となったではないか。社会主義者は維新の政治上における四民平等の制度を、経済上に応用せんとするに外ならない


19日の第一審判決。

第一段の「小学教師に告ぐ」は「現今の教育を以て国家のために強制して人民を教育し、人として教育をなさずとなし、其任に当る小学教師の職の如きは矛盾無意味残忍の甚だしきものとなし……国家という私欲団体を脱し博愛平等なる世界的一社会に入り、財産の私有を禁じすべての階級を打破し万民平等の社会に入り……無政府共産的絶対平等の社会主義を以て社会を改造せざる可らざるものとなし、朝憲を紊乱すべき事項を諭出し」たものと認めた。

第二段「戦争に対する教育者の態度」は、愛国心の美名の下にいかに多くの財富を消費し、いかに多くの人命を失い、いかに多くの寡婦孤児を泣かしめ、いかに多くの貧民を生ぜしか、社会のあらゆる罪悪の根源はかかる美名の下に発し……これがため社会の真の進歩を妨げ、正義を破り、人道に悖(もと)り……と記し、現時戦争の結果を……罪悪祝し国民奉公の愛国至誠を軽侮し民心を沮喪せしめ……社会の秩序を壊乱したと断定した。

裁判長今村恭太郎は、朝憲紊乱の廉(かど)により『平民新聞』の発行を禁止し、幸徳、西川を各禁錮5ヶ月、罰金50円、ならびに西川を第二段の行為により別に禁錮2ヶ月に処した。

11月15日

中国鉄道岡山~総社間開通。

11月15日

寶田石油、日本石油の両会社、共同して柏崎に国油共同販売所設置。資本金50万円。

11月16日

社会主義協会、結社禁止。治安警察法第8条によって解散を命じられる。滝野川の園遊会を秘密結社結成などと見做した。

11月17日

(漱石)

「十一月十七日(木)、東京帝国大学文科大学で午前十時から十二時まで「英文学概説」を講義する。

十一月十八日(金)、夕刻、東京帝国大学文科大学英文学科の英文会で、野口米次郎(ヨネ・ノダチ)を山上御殿へ招待し、参会者十四、五人、話を聞いて夕食を共にする。(安藤勝一郎の世話である)欠席する。」

「安藤勝一郎は、小泉八雲留任運動の中心人物であり、漱石には必ずしも好感を抱いていなかったらしい。漱石が欠席したのは、安藤勝一郎が中心になっていることを知っていたからではなく、野口米次郎(ヨネ・ノグチ)に関心がなかったためと推定される。」(荒正人、前掲書)


11月18日

古賀政男、誕生。

11月18日

ハンガリー、ティサ・イシュトヴァーン首相、議会手続き無視の下院議事打切り。

11月19日

社説「民権拡張の好機」(「万朝報」)。

主戦論を唱えるが、挙国一致の義務あるところ、民権拡張の権利もあると主張。戦前からの普選論を継続。

11月19日

ハンガリー、全野党合同「連合」結成。議長コシュート・フェレンツ、実際指導者アポニとアンドラーシ。

11月19日

ロシア・バルチック艦隊独立支隊、クレタ島スダ港集結。

11月19日

~21日(露暦11/6~8)ロシア、サンクト・ペテルブルクで第3回ゼムストボ(地方自治会)代表大会開催。34県中33県100人以上、議長シーボフ。代議制議会と市民の基本的人権としての自由を要求。憲法制定議会要求なし。

11月20日

平民新聞』第54号発行。

英文欄で、11月2日の社会主義協会演説会中止処分を弾劾。

「社会主義者は迫害に会うごとに更に一歩前進するが故に、吾人は政府の弾圧政策によって毫(ごう)も傷つけられる者ではない」

11月20日

(漱石)

「十一月二十日(日)、東京帝国大学文科大学学友会創設の発会式、札幌麦酒株式会社(吾妻橋工場、現・墨田区吾妻橘一丁目二十番三十四号)で催され、出席する。

十一月二十一日(月)、東京帝国大学文科大学で午前十時から十二時まで King Lear を講義する。

十一月二十二日(火)、東京帝国大学文科大学で午前十時から十二時まで King Lear を講義する。午後一時から三時まで「英文学概説」を講義する。」(荒正人、前掲書)


11月20日

佐々木喜善宅に大杉栄(19,白蒲君)から『平民新聞』が届く。


つづく



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