▲『朝日新聞』2014-05-10
マサチューセッツ工科大名誉教授 ジョン・ダワー
安倍晋三首相は憲法改正を最優先課題の一つに掲げており、かつてなく実現性が高まっているように見える。改憲を支持する人々、特に9条の見直しを訴える人々は、憲法の制約を外せば、本物の軍事力を持った「普通の国」になれると言う。しかし、この主張には問題がある。
戦後、日米安保条約に基づく日米の軍事協力関係には、当初から明確な目的があった。米軍がアジアに前方展開する際、日本を拠点にすることだ。このため自衛隊は常に米国の管理下にあり、決して自立して行動できない仕組みになっている。
たとえ改憲しても、この対米従属は続く。米軍への依存は変わらないし、むしろ米国の戦略により深く組み込まれることになる。日本が軍備を拡張すればするほど、米国の世界的な軍事活動に積極的な参加を求められるだろう。
これまで日本は、韓国のようにベトナム戦争に引きずりこまれることなく、イラクやアフガニスタンでの戦闘にも直接関わらずに済んだ。憲法の制約がなければ、こうした米国の誤った戦争に直接巻き込まれていただろう。
今の憲法は、米国が日本にただ押しつけたわけではない。例えば、故ベアテ・シロタ・ゴードンは連合国総司令部(GHQ)の民政局で、草案作成委員の1人として24条の男女平等条項の実現に力を注いだ。条文の翻訳を巡って米側と日本側が対立すると、通訳として日本側の立場も配慮し、内容のバランスをとったこともあった。
日本で幼少期を過ごした彼女だけでなく、民政局次長で弁護士だったチャールズ・ケーディスら他の草案作成委員たちも、日本人が民主主義的な国をつくれると信じていた。彼らの理想主義が、合衆国憲法に書かれていない平和主義を掲げて戦争を放棄し、女性の権利を保障するような進歩的な憲法を生み出した。
憲法起草を主導した米国人たちは、占領終結後、日本人が自ら憲法を改正すると予想していた。1950年の朝鮮戦争以降、米国は日本の再軍備を求め、憲法の制約を取り払うことも求めてきた。しかし日本国民はこれまで一貫して、憲法が掲げる反軍国主義の理想を支持し、改憲は実現しなかった。私はそのことに敬服している。
日本は米国の軍事活動に関与を深める「普通の国」ではなく、憲法を守り、非軍事的な手段で国際問題の解決をめざす国であってほしい。
(構成・田井中雅人)
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