東京新聞
派遣の春闘 冬の中 憲法保障の団交権機能せず
2014年5月8日 07時09分
今春闘での労働者間での格差が鮮明になっている。大企業が社員のベアを実施する一方、派遣労働者のほとんどは要求提出すらできていない。要求した人たちも、経営側の厳しいはねつけに遭い、初夏までずれ込んで泥沼化。全ての労働者に団結権や団体交渉権を保障する憲法二八条が骨抜きになっている実態が浮き彫りになっている。 (神野光伸)
四月末の夜。都内の貸会議室。大手派遣会社に登録し、運送会社などに派遣される練馬区の男性Aさん(45)が仲間三人で、派遣会社の幹部四人と机を挟んで向き合っていた。
「消費税増税で生活が苦しい。時給を上げてほしい」
経営幹部は「時給を上げれば同業他社に仕事を取られる。仕事が減ってもよいのか」と難色を示した。「ゼロ回答宣言」だった。
Aさんの時給は九百円から千円前後。交通費も支給されず、他のアルバイトを掛け持ちしても月収十五万円。「家賃六万円を引くと貯金もできない」と言う。数年前に同じ派遣会社に登録する仲間と労働組合を組織。毎年会社と交渉しているが、待遇はほとんど変わらない。「昨年の交渉が終わる前に今春闘が始まった。今回も終わりがない交渉になる」と悲観する。
派遣労働者の賃金交渉が難しいのは雇われているのが派遣会社であるため、実際に働いている派遣先企業がそれを理由に交渉に応じないことが多いためだ。
埼玉県新座市の女性Bさん(42)は待遇改善交渉をめぐって失業した。
ある生協で七年間、派遣として働いてきたBさん。派遣会社に交通費支給など待遇改善を訴えたが「派遣先が了承しない」と再三にわたり拒否された。昨春、やむなく派遣先の生協に交渉の要求書を提出したところ、「もう来なくていい」と通告された。契約更新を拒否され、派遣会社から仕事も紹介してもらえなくなった。
派遣のほとんどは労組にも加入できていない。派遣労働者を支援する派遣ユニオンの関根秀一郎書記長は「彼らは一日から三カ月間の短期で派遣されている。組合に入れば次の仕事を紹介されない嫌がらせに遭うことを恐れ加入できない」と指摘する。
派遣労働者は、小泉純一郎政権下の規制緩和で二〇一三年時点で百十六万人にまで増加。安倍晋三政権は「受け入れ期間三年」の上限撤廃を進め、さらに増やそうとしている。
和光大学の竹信(たけのぶ)三恵子教授(労働社会学)は「個々人が交渉すると弱いので集団で交渉するのが賃上げ交渉だが、派遣労働者は個別に切り分けられているため集団交渉できない。憲法が保障する団体交渉権を事実上、奪われており、脱法的だ。正社員やパートなどが派遣に置き換わっていけば、労働者全体の賃金が抑制され、日本経済への悪影響は大きい」と指摘している。
<非正規労働者と派遣労働者> 非正規労働者は2013年時点で約2000万人と、労働者の4割に増加。うちパート、契約社員などは企業に直接雇われているが、派遣労働者は派遣会社と雇用契約を結び企業に派遣される。派遣は小泉政権の業種規制緩和をきっかけに増加。現政権が国会に提出中の労働者派遣法改正案が成立すると、企業が3年ごとに働き手を交代させればどんな業務でも期間上限なく派遣に任すことが可能になり、さらに増加の見込み。
<憲法28条> 「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」としている。これに基づき全ての勤労者に団結権、団体交渉権、団体行動権の労働三権が認められている。
(東京新聞)
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