2014年11月24日月曜日

東京新聞 【社説】 問われる経済政策 この道を続けるのか : 「アベノミクスの正体は、低賃金の労働者を大量に増やすとともに、雇用と給与が安定した中間層の実質的な収入をも押し下げたということだ。」 

東京新聞 【社説】
問われる経済政策 この道を続けるのか      
2014年11月24日

 アベノミクスは大企業や富裕層の富を増やせば経済はうまく回るとの発想である。現状は格差拡大、中間層没落の流れだ。この道を続けていいのか。

 安倍晋三首相は、消費税増税の延期と衆院解散の意向を表明した記者会見で、こう強調した。
 「あれ(前回総選挙)から二年、雇用は改善し賃金は上がり始めている。ようやく動き始めた経済の好循環、この流れを止めてはならない」

 「デフレから脱却し、経済を成長させ、国民生活を豊かにするためには、たとえ困難な道であろうとも、この道しかない」

◆実態とは異なる数字

 異次元金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」からなるアベノミクスの成果を強調し、この経済政策の継続を訴えた。

 首相が誇示した成果は▽雇用が百万人以上増加▽有効求人倍率は二十二年ぶりの高水準▽今春闘は平均2%以上、給料がアップし過去十五年間で最高-である。

 確かに表面上の数字はこの通りだが、実態となると異なる。雇用の改善で増えたのは非正規雇用ばかりで正社員は減少した。

 給料は増えたが、それ以上に物価が上昇しているため、物価上昇分を差し引いた実質賃金は九月まで十五カ月連続で前年同月を下回った。

 アベノミクスの正体は、低賃金の労働者を大量に増やすとともに、雇用と給与が安定した中間層の実質的な収入をも押し下げたということだ。

 要するにアベノミクスの恩恵は、株などの資産を持つ富裕層をまず潤し、次に非正規とはいえ職を得られた雇用弱者に及ぶ。

 しかし、中間層には賃上げの継続が実現しないかぎり波及しないのだ。アベノミクスに対し「格差を拡大させ、中間層を疲弊させる」との批判が向けられるゆえんである。

 かつて日本経済が輝きを放っていたころは、一億総中流といわれたように「分厚い中間層」が消費活動を支え、経済社会に安定をもたらしていた。

 消費税増税で個人消費が大きく落ち込み、国内総生産(GDP)が二期連続でマイナスになったのは、中間層の先細りが主因だったのは間違いない。

 「富める者が富めば、富の滴が下層に落ちる」

◆富裕層を富ます政策

 新自由主義から派生したトリクルダウン理論は、安倍政権の経済政策に通底する思想である。だが、株価の大幅上昇とは裏腹に実体経済は改善せず、中小企業や地方への恩恵もない。

 経済の司令塔である経済財政諮問会議に財界人が重用され、経営者や富裕層寄りの政策が確実に進められてきた。

 「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指すとして、法人税の引き下げや派遣労働者の増大・固定化につながる規制緩和、残業代ゼロや年功賃金の見直しなど人件費コストの圧縮が後押しされる。企業の論理がまかり通り、中間層は細っていく。

 また「稼ぐ力を高める」を掛け声に、原発や武器(防衛装備品)を官民で海外に売り歩いたり、賭博を合法化するカジノ施設の解禁、国民の大切な年金資金をリスクにさらす株運用の比率を大幅に増やす年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)改革を進める。

 成長戦略のためにすべてが許されるわけではない。節度が必要だ。

 政権が多用するフレーズに「頑張った人が報われる社会に」がある。大きな経済格差や機会の不平等を考慮せずに「報われないのは努力が足りないから」といった強者の論理になる。非正規労働の処遇放置や低所得者対策の貧しさから、社会的弱者への思いが至らないのではないか。

 首相は同じ会見で「アベノミクスに対して失敗した、うまくいっていないとの批判があるが、ではどうすればいいのか。具体的なアイデアは一度も聞いたことがない」と胸を張ってもいる。

◆別の道の具体像示せ

 野党はやはり「別の道」をしっかりと示す必要がある。民主党は「分厚い中間層の再生」を掲げるが、具体的にどうやって実現していくのか。共産党は「消費税10%にストップ」というものの、財源確保の代替案を含めて、明快に示してほしい。

 経済政策で今、問われるのは、デフレからの脱却であり経済の再生であるのは言をまたないが、そのために国民や働く人が不幸になったのでは本末転倒である。富める者よりも、まず低所得者や、障害者ら社会的弱者が先に潤う道があっていい。







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