(酒井啓子 思考のプリズム『朝日新聞』2017-12-13)
(略)
さらなる火種は、エルサレムにある。アメリカのトランプ大統領が、イスラエルの首都をエルサレムとし、米大使館も移転すると決定した。
エルサレムの西半分は、イスラエル建国当時からイスラエル領だが、東半分は1967年の戦争で、イスラエルがアラブ側から奪ったものだ。その後一方的に併合し、「占領」ではないとしているので、返還する意思はない。未来永劫返すつもりのない聖地エルサレムを、首都として国際社会に認めさせるのが、イスラエルの方針だ。
国際法的には違法である。だがトランプ政権は、それを全面的に支持する。この決定にイスラム世界全体がざわついているが、その1カ月前には、イスラムの二大聖地の守護者を称するサウジアラビアが、イスラエルとつながっているとの情報が流されている。
サウジとその連合軍が空爆するイエメンでは多くの人が命を失っている。昨日たわいもない世間話をした隣人が、次の日に死体となって横たわる。
イスラエルが占領したパレスチナの地には、イスラエルが建国される前にこの地に住んでいた人々屍が、埋められている。遺骨が掘り起こされることも、返還されることもなく。
他人の屍が累々と埋もれる地面のその上に、何食わぬ顔をして生き続けること、そこに安住の生活ができると考えることの、底知れぬ恐ろしさ。
追い出した、あるいは(国境を閉じて)視界の外に追いやって見えなくした人々が、どのような日常を紡いできたのか、どのような温かい人間関係に包まれて生活してきたのか、顧みることもなくその命の犠牲の上に、平和で安全な生活を心から営めるのか。
(略)
『朝日新聞』2017-12-13
0 件のコメント:
コメントを投稿