2014年4月29日火曜日

政治家の妄言と「世界」喪失(濱野智史 『朝日新聞』2014-04-24) : 「給料の 上がりし春は 八重桜」・・・この首相の句がまずいのは「日本人の大半が正規雇用者であり、春闘を通じて給料が上がった」と考えているようにしか見えないことだ。

政治家の妄言と「世界」喪失    濱野智史
『朝日新聞』2014-04-24

 政治家、特に安倍首相とその側近たちの妄言が相次いでいる。その多くが歴史認識問題や憲法解釈をめぐるものだが、筆者が特に気になったのは、「今月の3点」(論壇時評)でも取り上げた、首相が観楼会で詠んだという次の旬である。「給料の 上がりし春は 八重桜」。東大教授の安富歩氏はこれを見て、ツイッター上で「八重にあがるは 消費税かな」と見事な下の句をつけて皮肉った。確かにこの首相の句がまずいのは「日本人の大半が正規雇用者であり、春闘を通じて給料が上がった」と考えているようにしか見えないことだ。この句を見たら、例えば非正規雇用の立場にある多くの人がどう思うのか、どうやら全く視野に入っていないのである。これは由々しき事態だ。
政治家の妄言は今に始まったことではないが、あまりに知的レベルが低いとしか思えない発言が連鎖する現状を、どう考えたらいいのだろうか。

(略)

・・・、現代社会に生きる我々は、すでに「世界」を喪失して久しい。巨大な都市化を遂げた現代社会では、もはやポリスのような小規模の共同体空間は維持できない。効率性だけが追求される資本制社会では、多くの人々は(かつてポリスでは奴隷が担っていた)食いつなぐだけの「労働」にしか従事できず、後世に残る「仕事」には関われない。だから疎外感を味わう。政治家も、自分の発音が「永遠に残る」などと全く感じていないだろう。だから反知性的な発言を繰り返す。
つまり、私たちの社会は(「日本」を取り戻すよりも先に) 「世界」を取り戻すべきなのだ。「世界」の再設計、それは決して不可能なことではないはずだ。・・・

(略)

そしてこの論壇時評面に求められる役部は、そうした「世界」の再設計に繋がるような(・・・)「現智」を取り上げシェアすることだと、論壇委員を担当して早4年目の春に、筆者は強く確信しているのである。


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