2016年10月2日日曜日

隠れた貧困層1~4(『朝日新聞』) ; 世帯収入は生活保護の基準以下なのに実際には保護を受けていない人(隠れた貧困層)は、少なくとも2千万人を上回る 200万人超の生活保護受給者の後ろに膨大な「隠れた貧困層」がいる

隠れた貧困層1
低年金 届かぬ生活保護
厳しい受給条件 ためらいも

 (略)

 年金収入だけでは、生活保護の基準以下。
だが、保護の申請は踏ん切りがつかない。
「生活保護は障害や病気に悩む人のための制度だと思う。昔から健康に働き、子どもを育ててきたプライドがある」
テレビは見ないし、新聞もやめた。老眼鏡のレンズも合わないが、がまんしている。

 2013年秋から、過去の物価下落時に据え置いた分の年金の減額が行われた。
「これ以上、どうすればいいの」。
女性は、減額分の支給を求める集団訴訟の原告団に加わった。

 国民年金は満額でもらっても月6万円台に過ぎない。多くの高齢者が低年金に苦しんでいる。
一方、生活保護を受ける65歳以上の高齢者世帯は約80万。低年金でも、生活保護で補えていない人たちがいる。

 主な理由は生活保護の受給条件の厳しさだ。
地域や年齢で決まる「最低生活費」の1カ月分が、収入や貯金などで賄えないと判断された場合、保護が支給される。自家用車の所有は原則として不可だ。

 親族に支援できる人がいないかもチェックされる。
生活保護への偏見から、申請をためらう人もいる。

 社会保障に詳しい都留文科大学の後藤道夫名誉教授は
「日本は丸裸になるまで自助努力に任せる。生活保護に頼れず、福祉の手が届かない人々がたくさん存在している」
と指摘する。
言わば、「隠れた貧困層」だ。
後藤氏の推計によると、世帯収入は生活保護の基準以下なのに実際には保護を受けていない人は、少なくとも2千万人を上回る。高齢化が進めば、その数はさらに膨らむ。

 (略)

 200万人超の生活保護受給者の後ろに膨大な「隠れた貧困層」がいる。・・・(略)

隠れた貧困層2
家賃支払い惜しく、車上生活2年
重い医療費「病気治せぬ」

 (略)

 立命館大の唐鎌直義教授(社会保障論)は
「生活保護の手前で貧困を食い止める対策が必要だ。国や自治体は公的な家賃補助や、医療費、国保保険料の減免を進めるべきだ」
と話す。

隠れた貧困層3
生活保護受給者 強まるチェック
保護打ち切りに懸念も

隠れた貧困層4
保護基準引き下げ影響広く

 「保護基準の引き下げは、生存権を保障する憲法に反します」。7月、さいたま市内で生活保護受給者らが通行人に呼びかけた。
2013年度から、食費などにあてる「生活扶助」の基準額が引き下げられた。物価下落などが理由で、13~15年度に3段階で計6.5%という大幅減だ。

 (略)
全国27地裁で基準引き下げの取り消しを求める集団訴訟が起こっている。

 一方、神奈川県の女性(78)は、生活保護受給者のこうした運動に違和感をもつ。「生活保護の人は社会に甘えているのでは」

 (略)
「生活保護が目の前にぶら下がっている状態でがんばっている」。
だからこそ、保護を受ける人もがまんするべきだ、と考える。

 生活保護の受給者と、保護を受けていない「隠れた貧困層」との気持ちの溝は埋まらない。

 昨年4月、3段階目の基準の引き下げが完了した。17年に行う次回の基準見直しでも引き下げが検討されそうだ。
だが、生活保護の基準引き下げは、保護を受けていない「隠れた貧困層」にもマイナスの影響を及ぼす。

 例えば住民税の非課税ラインだ。
生活保護の基準引き下げが勘案されれば、課税対象が広がる可能性がある。
子どもの学用品費などを支援する就学援助も、生活保護を参考に対象を決める市町村が多い。
文部科学省によると、15年度当初は基準引き下げの影響で全国27市町村が対象を狭めた。

受給範囲・財源 課題は山積

 「隠れた貧困層」を救えるのか。
花園大の吉永純教授は「保護の守備範囲をもっと広げるべきだ」と指摘する。

 人口に占める生活保護受給者の割合は約1.7%
吉永氏ら研究者が10年ごろに同様の制度の利用率を調べたところ、フランスは5%超、ドイツ、英国は9%超だった。
英国では1万6千ポンド(約210万円)まで貯金などの資産を持っていても対象になり、車の所有も可能だった。
日本では貯金や収入などで最低生活費の1カ月分を賄えないことが条件だ。

 保護の手前で食い止める対策も不可欠だ。

 都留文科大の後藤道夫名誉教授がまず挙げるのは低賃金のワーキングプア対策だ。
最低賃金を上げ、失業給付を充実させれば保護が必要な働き手は減る。

 その上で低所得者にのしかかる「医療」「住まい」の負担緩和を進める。
低所得者向けに家賃を補助したり、国民健康保険の保険料をゼロにしたりする - 。

 どの対策にも財源のカベが立ちはだかる。
「法人税の増税や高所得者への課税を進めるべきだ」と後藤氏は話す。

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