韓国詩人ユンドンジュ
韓国で国民的な詩人として敬愛される尹東柱(ユンドンジュ)は、27歳だった第2次大戦が終わる直前、日本で世を去った。みずみずしく叙情的でありながら精神がぴんと張り詰めた作風は、日本文学にあてはめると、中原中也のように若い世代を魅了する
▼クリスチャン家庭に生まれた東柱は戦中に留学生として京都の同志社大でも学んだ。新緑の宇治川つり橋で学友と遊んだ時のおだやかな表情が、生前最後の写真として残る
▼その後に過酷な運命が待ち受ける。治安維持法違反の嫌疑で逮捕された後、刑務所で死を迎えた。衰弱したのか他の理由かは定かでない。絶命直前、日本人看守には理解できない言葉を叫んだとも伝わる
▼政治的活動の記録はない。当時の政府が敵視した「抗日」「独立」という言葉も、作品に使われていない。唯一貫いたのは、美しい詩を母国語でつづり続けたことだった。ソウルの友人に託して床下で隠された作品は、戦後になって明らかになった
▼治安維持という名のもとに民族の誇りを奪い、自由な言葉による表現活動を封じた時代があった。何が違反なのかは取り締まる側の裁量に委ねられ、弾圧対象が広がった
▼「特定の秘密を保護する」という名分の法が成立した今こそ、尹東柱の非業の死を胸に刻みたい。きょう16日は命日にあたる。
[京都新聞 2014年02月16日掲載]
0 件のコメント:
コメントを投稿