2014年2月15日土曜日

アングル:激化する日中「PR戦争」、日本は劣勢 (ロイター) : 「「たとえ安倍首相が再び靖国を参拝しなくても、(日本政府が取り組んでいる)アジェンダには問題視されそうなものがたくさんある」と、スタンフォード大学のスナイダー副所長は指摘している。」

ロイター
アングル:激化する日中「PR戦争」、日本は劣勢
2014年 02月 14日 16:08

 [東京/北京 14日 ロイター] -安倍晋三首相が靖国神社を参拝して以降、日本は中国との「広報戦争」で劣勢に立っている。世界中のメディアで軍国主義の復活だと宣伝する中国に対し、日本も反撃を試みているが、過去の戦争をめぐるNHK経営委員の発言も飛び出し、中国に攻撃材料を与えている。

日中関係は日本の尖閣諸島(中国名:釣魚島)国有化ですでに冷え込んでいたが、中国が国際世論への訴えを強めたのは、安倍首相による昨年末の靖国神社への参拝以降だ。軍事費を毎年10%以上増額したり、新たに防衛識別圏を設定するなど、軍事的に積極姿勢を強める自国への批判をうまくかわしていると、専門家は指摘する。

「これはまさに戦争だ」と、広報戦略のコンサルティング会社、フライシュマン・ヒラードの田中愼一社長は言う。「日本と中国は『メッセージ』というミサイルを使い、実際にどちらの国にも大きな被害が出ている」と同社長は語り、ナショナリズムの台頭や経済関係への影響を懸念する。

安倍首相は靖国参拝について、戦犯を崇拝するためではなく、戦争の犠牲者を追悼し、不戦を誓うためだと繰り返し説明している。

しかし、そのメッセージを世界に理解してもらうのは簡単ではない。「(参拝は)中国に対し、日本を攻撃し、中国は良いやつ、日本は悪者というメッセージを送るきっかけを与えた」と田中社長は話す。

<ゲッベルス流の宣伝戦略>

日本政府の中には、戦後の平和国家としての実績がいずれ勝利をもたらすと考える関係者もいる。外務省副報道官などを歴任した谷口智彦・内閣審議官は、電子メールによるロイターの取材に対し、ナチス・ドイツの宣伝相だったヨーゼフ・ゲッベルスを例に出し「うそも100回言えば本当になるという、彼らのゲッベルス流宣伝戦略は、21世紀の今もレーニン主義が生きていることの証明だ」と回答。「確かに最初は我々も困惑したが、何も恥ずべきことはしていないとすぐに思い直した」としている。

それでも安倍首相の靖国神社参拝によって、日本が進める軍備増強と憲法解釈の変更を、過去の軍国主義と結び付けやすくなったと専門家は指摘する。「基本的に中国が主張しているのは、日本が1930年代のように軍国主義の道を歩んでいるということ。ナンセンスな話だ」と、スタンフォード大学アジア太平洋研究センターのダニエル・スナイダー副所長は言う。しかし、首相の靖国参拝によって、戦前の日本と今の日本を結び付けやすくなったという。

直近では、過去の戦争をめぐるNHK経営陣の発言が中国の日本批判に一段と火をつけた。中でも籾井勝人会長は、就任会見で従軍慰安婦に言及し「どの国にもあった」と発言。のちに謝罪する事態になった。NHKの会長は、国会の同意を得て任命された経営委員会が選出することから、中国にとっては日本を攻撃する格好の口実となった。

今年に入り、中国は世界69のメディアで日本批判を展開している。大使や高官のインタビューや寄稿、記者会見など形式はさまざま。日本の外務省によると、2月10日時点で日本は67件に反論し、残り2件についても反論を検討している。

中国外交部の華春瑩報道官は、国際世論を勝ち得たかとの質問に対し、韓国のような国も日本を批判していると説明。「日本の指導者の誤った行動が、国際社会の反発を呼んでいる。歴史の正義を守るため、中国は戦争で犠牲になった他の国とともに戦う」と述べている。

日中の言葉の応酬は、ロンドンからワシントン、さらにはフィジーや南スーダンまで世界各地で繰り広げられている。最も知られているのは、互いをハリー・ポッターの悪役になぞらえた両国の駐英大使のやりとり。劉暁明大使が英デイリー・テレグラフ紙に寄稿し、闇の魔法使いとして有名なヴォルデモート卿に日本をたとえると、日本の林景一大使は、中国こそがその悪役になりかねないと反論を寄せた。

「日本は歴史に真摯(しんし)に向き合い、反省の念を示してきたということを説明しようとしている」と、外務省の佐藤勝報道官は言う。「靖国参拝を安全保障と結び付けようとする動きがあるが、まったく関連のないことだ」。

しかし、日本のような受身の対応では、国際世論を動かすことはできないと専門家は指摘する。さらに日本の外交官の中にも、同様の懸念を共有する向きがある。北京に駐在するあるアジアの外交官は、日本の外交官から聞いた話として「日本の外交当局は、このプロパガンダ戦争に勝てるかどうか非常に懸念している」と話す。「日本の外交官たちは、どうすれば自分たちのストーリーをうまく伝え、欧米の共感を得ることができるか聞いてくる」という。

靖国神社を再び参拝するかどうかについて、今後も安倍首相が明言しなかったり、過去の戦争について日本の著名人が物議を醸す発言をすれば、欧米各国の共感を得ることは難しいだろうと専門家は指摘する。愛国心を高めようとする教科書改訂のような問題も、火に油を注ぐかもしれない。

「たとえ安倍首相が再び靖国を参拝しなくても、(日本政府が取り組んでいる)アジェンダには問題視されそうなものがたくさんある」と、スタンフォード大学のスナイダー副所長は指摘している。

(リンダ・シーグ、ベン・ブランチャード 翻訳:久保信博 編集:田巻一彦)



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