2012年10月21日日曜日

私立高教員、37%非正規 派遣・請負、じわじわ拡大 生徒数減り人件費抑制

【11月25日追加】
NHKクローズアップ現代「広がる“派遣教師” 教育現場で何が」(2012年11月20日(火)放送)
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私立高教員、37%非正規
文部省調査 生徒数減り人件費抑制
-----「朝日新聞」10月13日より

<記事>
全国の私立高校で「非正規」の非常勤、常勤講師が増えている。
2011年には合わせて約3万4千人に達し、全体の36・8%を占めたことが文部科学省の調査でわかった。
背景には生徒数の減少による経営難がある。
雇用が不安定な非正規教員の増加で、教育の質の低下を懸念する声もあがっている。

▼38面=ひずみ、私学も
文部省の調査によると、非正規教員の比率は、公立高(19・7%)より17ポイント以上高かった。
01年と比べると、私立高の教員数は9万数千人でほとんど変化がないが、正規教員は、退職者補充などが抑制された結果、約4千人減少。
逆に非正規教員は2,800人増えて約9%の増加となった。

少子化で、私立高の生徒数が激減している。
日本私立中学高等学校連合会によると、10年間で生徒総数は15%減少。
経営難の高校が増え、総経費の約7割を占める人件費が重荷になる一方、少人数の授業や習熟度別クラスなどに対応するために教員数は減らせない。

フルタイムで働く教員にかかる人件費は1人あたり平均827万円(10年)で10年間で7%下落。
同時に数を維持するため正規から非正規への置き換えも進み、平均人件費率は70%から66%に下がった。

継続した勤務が難しい非正規教員の増加が、教育現場に与える影響は大きい。
だが「経営の苦しい学校では人件費にしわ寄せが行く状況が今後も続く」(同連合会)との見方が多い。
教員確保が難しい私学では、人材会社から派遣される教員を活用する学校もある。

文科省によると、教員の雇用形態に関する規制はない。(小室浩幸)

(38面)
非正規のひずみ 私学も
年収160万円 休日バイト
「契約外の仕事断れない」

全国の私立高で増える非正規教員。
不安定な雇用や低い賃金に悩む教員がいる一方、学校によっては非正規の教員さえ自前で確保できない現実もある。
▼1面参照

都内の私立高で非常勤講師を務める女性(29)は社会人になってから1~2年ごとに職場を変わってきた。
「転勤のない私立にひかれたが、実態は違った」と、ため息を漏らす。

今春まで勤めた埼玉県内の私立高では、約100人の教員の4割を非常勤講師が占めた。
自身は社会科を週16コマ担当し、試験問題も作成。
生徒の進路相談にものった。

なのに年収は約160万円。
休日に、学校から離れた飲食店でアルバイトをしたこともある。

授業や生徒との関係づくりには自信がある。だが、翌年の契約に保証はない。
「先生、来年はどうなるの」。
生徒に声をかけられると、答えに詰まる。

別の私立高の非常勤講師の男性(34)は「部活動の指導など、契約時の条件にないことを頼まれても断れない」と明かす。
他校と掛け持ちする同僚もいるが、生徒の事情に疎くなるのは避けられない。

正規教員の求人情報を調べては履歴書を送る。
「生活が安定すれば、指導にもいっそう身が入ると思う」

大手人材会社によると、首都圏の私立高で働く非常勤講師の待遇は、50分授業あたり平均2,800円程度。
時間外手当は期待できず、賞与や福利厚生の面でも正規との差が大きい学校が多いという。

公立高の校長経験がある私立高の校長は「教員の質が売りもののはずの私立で非正規教員の比率が高いことに驚かされた。だが、現実には、正規の数を維持するのが精いっぱい」と話す。

人件費の抑制を迫られる学校側だが、生徒1人あたりの教員数はむしろ増える傾向にある。

また、認知度が低かったり交通の便が悪かったりする私学では、自力で非正規教員を確保することさえ困難なケースも多い。こうした学校が頼るのが教育系の人材会社からの紹介や派遣だ。

首都圏のある私立高では複数の人材会社から派遣された教員15人が教壇に立つ。
「非常勤講師を直接雇用するよりも高くつくが、新学期から勤番できる人材を自力では確保できず、3月に派遣を頼んだ」(校長)という。
別の私立高では「受験指導のため、予備校と掛け持ちの先生を派遣してもらっている」(副校長)。

私学での教員経験もある教育評論家の尾木直樹さんは、「非正規の比率が高すぎる。事前面接が禁じられている派遣では、建学の精神や校風にあった教員の採用は難しい」と指摘する。

「人件費抑制が続いて教育水準が下がれば、当の私学だけでなく、社会全体がしっぺ返しを受ける。多くの非正規教員が情熱を持って生徒に向き合っているが、不安定雇用では志も長続きしない。国の教育予算の増額は待ったなしだ」 (小室浩幸)

派遣・請負、じわじわ拡大
採用、組合調査の13%

非正境雇用で働く教員の中で、派遣や請負といった、学校と直接雇用契約を結ばない先生も広がっている。
全国私立学校教職員組合連合(全国私教連)が590の私立高校を調べたところ、少なくとも35の私立高校に派遣や請負の講師がいることがわかった。

全国私教連系の組合がある私立高校を対象に調査し、262校から回答があった。

その結果、人材会社が派遣したり、業務委託として授業を請け負ったりする講師がいると答えたのは35校、人数は140人に上った。
回答数に占める学校の割合は13%で、1校あたり平均4人。
全国私教連の永島民男・中央執行委員長は「派遣や請負の多い学校が回答していない可能性がある。実際はもっと多いだろう」と話す。

35校のうち、請負の講師を使っているのは5校で計27人だった。
本来の請負は、働く人に指揮や命令ができない。
しかし、学校現場では、「進み具合に応じて授業内容を決めたり、生徒に個別指導たりすることは、学校側の指示なしではできない」(永島委員長)。
形式的には請負なのに指揮・命令をすると、「偽装請負」として労働者派遣法違反となる。

埼玉県深谷市の正智深谷高校では、派遣会社と請負契約を結んでいた講師に授業内容を指示するなどしていたため、東京労働局が9月に学校や派遣会社に是正指導した。

永島委員長は「派遣にすれば合法になるが、学校に対する愛校心や帰属意識は芽生えない。より良い教師を育てるためにも無期の直接雇用に切り替えるべきだ」と指摘している。
(吉田拓史)

<転載終り>

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