東京新聞
海洋放水 トリチウム濃度上昇 地下水バイパス暗雲
2014年6月19日 07時11分
東京電力福島第一原発で、地下水が建屋に流れ込んで汚染水になる前にくみ上げ、海に放出する「地下水バイパス」をめぐり、放出している水に含まれる放射性物質のトリチウム濃度がじりじり上がり続けている。昨年夏に三百トン超の高濃度処理水が漏れたタンク群近くの井戸水が、全体の濃度を押し上げている。東電はこの事実に気づきながら、対策を取ろうとしない。(小倉貞俊)
地下水バイパスは、汚染水の発生抑制のため、1~4号機の西側にある十二本の井戸からくみ上げた水をいったんタンクに集め、混ぜた状態で放出基準(トリチウムは一リットル当たり一五〇〇ベクレル)未満だと確認できれば海に流す仕組み。
これまで最も南側の井戸では、基準を超えるトリチウムが検出され、十六日に採取した水では過去最高の二〇〇〇ベクレルを記録した。東電は、個別の井戸で高い数値が出ても「水を混ぜて基準を下回れば問題はない」と主張。現在は混ぜた状態で二三〇~三二〇ベクレルで、急上昇しない限り放出を続けるという。だが、混ぜても濃度が上昇してきていることは、東電自身の分析結果でも明らかだ。
どの井戸からトリチウムが多くもたらされたのか。東電の分析では、南側三本の井戸だけで、全体の九割以上を占めていることが判明。これらの井戸は、いずれも水漏れを起こしたタンクから百数十メートルと近く、地下水の流れの下流に当たる。ほぼ水と同じ性質のトリチウムが先行して流れ込んだとみられる。
最も南の井戸だけでもくみ上げを止めれば、全体の濃度は現在の二割程度に下がることは確実。放出する地下水を増やしたいなら、汚染度が低いとみられる北側に新たに井戸を掘るなどの手段も考えられる。
しかし東電は「地下水バイパスは十二本の井戸を一体として運用している。地元住民の方々のご理解は得ている」(小林照明原子力立地・本部長代理)などとして新たな手を打とうとはしない。ただ、このまま濃度が上がれば、地元漁協の理解が得られ続けるかどうかは疑問で、地下水バイパスそのものが頓挫しかねない。
(東京新聞)
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