2014年7月29日火曜日

マヤ・アンジェロウ『歌え、翔ペない鳥たちよ マヤ・アンジェロウ自伝』(矢島翠訳)を読む : 「できないというのは、構わないというのと同じ」

マヤ・アンジェロウ『歌え、翔ペない鳥たちよ マヤ・アンジェロウ自伝』(矢島翠訳)を読んだ。
今年(2014年)5月28日に86歳で亡くなられた著者の五部作にわたる自伝或は自伝的小説の第一作。

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「アンジェロウは一九二八年四月四日、ミズーリ州セント・ルイスに生まれた。両親が離婚したあと、三歳のとき、ひとつ違いの兄といっしょに、カリフォルニアからアーカンソー州スタンプスの祖母のもとに送られる。手首に行先を替いた荷札をつけられて、幼い子どもだけの長旅だった。」
(訳者あとがき)
祖母のもとに引き取られたアンジェロウの17歳までを描いたのが自伝第一作の本書である。

1928年生まれということは、和暦でいうと「昭和3年生まれ」ということになる。

本書の魅力について、「訳者あとがきに」に、

「ここまでが第一部で語られているのだが、波瀾に富んだ過去をふり返るアンジェロウのまなざしが、あくまでのびやかなことには驚くほかない。
しいたげられた者の恨みにも、挫折感にもとらわれず、幼くして味わった人生のむごさ、暗さと同時に、自分を取り巻いていたものと人びとの魅力を、時にはユーモアとともによび起こす。
彼女の自伝は色彩と、音と、匂いと、肌ざわりにみちている。もちろん、味覚も忘れられていない。
自分ひとりの心の変化だけを見つめずに、外界のゆたかさ、そこに生きる<他者>の存在に眼と心を開け放つ。
どっしりしていて愛情の深い祖母をはじめ、肉親や友人たち、あるいは彼女の人生において端役をつとめたにすぎない男女に至るまで、なんといきいきとした相貌が浮びあがることだろう。
そして黒人的な表現を含めて、彼らの会話の面白さ。

そうした特徴は五部作に一貫しているのだが、この連作を<自伝>よりもむしろへ<自伝的小説>と定義する人がいるのも、もっともに思われる。」
(訳者あとがき、改行を施した)

とある。

私が特に気に入ったのはは以下の個所である。

第二次大戦下のアメリカ、
「世界は非常な速さで動き、非常な額のもうけがあがり、非常な数の人間がグアムやドイツで死につつあり、見も知らぬ人々の大群が一夜で親しい間がらになっている。生命の値段は安く、死は完全にただだ。」


そのアメリカの、サンフランシスコで15歳になる高校生のアンジェロウは市街電車で働こうと思いつく。

「わたしが証明書を出せば、十五歳で就業資格なしということがばれてしまう。従って、給料のいい軍事産業関係の勤め口もだめだ。市街電車で女性は男性に替って車掌や運転手として進出していたが、ベルトに両替機のついた紺の制服姿で、サンフランシスコの坂を滑るようにのぼり下りできたらという考えは、わたしの気に入った。」
という訳である。

彼女はまず母親を説得する。

「・・・母はその案を「電車では有色人種はお断りよ」といってしりぞけた。
わたしはたちどころに激怒し、次には人種的制限の因習を打破しようという気高い決意をかためた、といいたいところである。だがほんとうをいうと、わたしの最初の反応は落胆だった。」

しかし、それではおさまらない。

「落胆にはじまり、わたしは徐々に感情のはしごをのぼって居丈高な憤慨に達したあと、ついに精神が怒れるブルドッグのごとく歯をくいしばる、例のてこでも動かない状態に行きついた。

わたしは電車に働きに出て、紺サージの上下を着るのだ。母は例によって簡潔なわきゼリフで支持してくれた。「それがしたいこと? じゃあためしてみて、失敗したらそれまでだ。自分の力のありったけでやってごらん。何回もいったじゃない、『できないというのは、構わないというのと同じ』って。どっちにしてもゴールはないわ」

これを翻訳すれば、人にできないことはないし、人間にとって関心のないことなどあってはならない、という意味だ。それはわたしの望み得る最も積極的なはげましだった。」

この家族、祖母も立派だけれど、母親も娘のチャレンジに決して動じないで、激励する。
この先、一生、黒人として生きてゆく心構えであろう。
「できないというのは、構わないというのと同じ」

アンジェロウは、結局、黒人団体の支援をとりつけてその目的を果たす。
痛快物語といってもいいくらいのエピソードでもある。

第二作以降も読みたくなる。

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