2014年10月13日月曜日

ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』を読む(106) 「第15章 コーポラティズム国家 - 一体化する官と民 -」(その2) : 「ブッシュ政権においては、戦争成金が政府に接近しようとしたばかりでなく、政府そのものが戦争成金で構成されていた。両者を隔てるものは存在しなかった。」

北の丸公園 2014-10-07
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チェイニーの場合
「チェイニーもまたハリバートンとの関係を維持しようとした。・・・

ブッシュの副大統領候補に指名され同社CEOの職から降りるにあたって、チェイニーは退職パッケージに大量の同社株とストックオプションを含めるよう交渉した。マスコミからの追及を受けたチェイニーは一部の持ち株を売却することに同意し、それによって一八五〇万ドルという巨額の売却益を手にしたが、それはあくまで所有株の一部にすぎなかった。」

「『ウォールストリート・ジャーナル』紙によれば、チェイニーは副大統領に就任した時点で、ハリバートンの持ち株一八万九〇〇〇株と未確定オプション五〇万株を手元に残していたが、その後、株から得た利益を慈善事業に寄付する法的契約書に署名した。

副大統領就任後の四年間、チェイニーは同社から繰延収益として毎年二一万一〇〇〇ドルの支払いを受けていたが、これは副大統領の年収にほぼ匹敵する。

一方のハリバートンも、石油価格の急騰と数十億ドル規模の入札なしの契約事業のおかげで収益は急激に増大した。

この二つの要因がともに、チェイニーがアメリカの国益保護のために絶対に必要だと主張してイラク侵攻の決断が下されたことと密接に関連しているのは言うまでもない。

結果的に、戦争はアメリカの物理的および経済的な安全性を損なったが、ハリバートンには大きな勝利をもたらした。同社の株価は、イラク戦争前の一〇ドルから三年後には四一ドルへと約四倍に急騰した。

イラクのケースもまた、キンザーのセオリーがぴたりと当てはまるように思われる。サダム・フセインはアメリカの安全保障に脅威を与えていたわけではないが、エネルギー企業にはたしかに脅威を与えていた。当時フセインはロシアの巨大石油企業と契約を交わし、フランスの大手石油会社卜タルとも交渉を進めていたが、英米の石油メジャーは蚊帳の外に置かれていた。世界第三位の原油埋蔵量を持つとされていた国がイギリスとアメリカの手からすり抜けようとしていたのである。フセイン政権の崩壊は、エクソン・モービル、シェブロン、シェル、BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)など英米の石油メジャーに新たな可能性への道を開いた。これらの企業がイラクでの石油事業の下準備を着々と進める一方で、ハリバートンもまたアラブ首長国連邦の首都ドバイに本社を移転し、これら大手石油企業にエネルギー・サービスを売り込む態勢を整えていた。この時点ですでにイラク戦争は、ハリバートンにとって史上最高の収益を生む事業となっていた。」

ブッシュの政府そのものが戦争成金で構成されていた、汚職と天下り(”回転ドア”)
「ブッシュ政権においては、戦争成金が政府に接近しようとしたばかりでなく、政府そのものが戦争成金で構成されていた。両者を隔てるものは存在しなかった。」

「ブッシュ政権が、近年まれに見る破廉恥な汚職スキャンダルにまみれていたことは今さら言うまでもない。連邦議員をゴルフ旅行に招待したロビイストのジャック・エイプラモフから、所有するヨット「デューク・スター号」を軍事企業に寄贈し、贈収賄罪で八年の刑を受け服役中のランディ・”デューク”・カニングハム元下院議員・・・

まるで、九〇年代半ばのモスクワやブエノスアイレスを思わせる腐敗ぶりである。」

「さらに、政府と産業界を往き来する”回転ドア”もブッシュ政権の特徴だった。・・・

ブッシュ政権下では、セキュリティー・ビジネスが天井知らずの収益拡大を続けるなか、少なからぬ数の政府当局者が誘惑に抗しきれず、さまざまな政府機関の何百人という職員が任期切れを待たずに回転ドアに突進した。

国土安全保障省における転職状況を調査したエリック・リブトンは、『lニーヨーク・タイムズ』紙にこう書く。「ワシントンのベテラン・ロビイストや監視グループによれば、政権終了前に離職する上級職員がこれほど続出する例は近年ではまず見当たらないという」。リブトンは、同省の職員からセキュリティー業界へと転職した者九四人を確認している。」

いくつかの例示
「①「愛国者法」成立の立役者であるジョン・アシュクロフト元司法長官は現在、セキュリティー企業に政府契約を斡旋するアシュクロフト・グループを率いている。

②国土安全保障省の初代長官トム・リッジはリッジ・グローバル社の創立者兼CEOであり、セキュリティー分野に積極的に参入している通信機器メーカー、ルーセント・テクノロジー杜の顧問も務める。

③9・11の際の対応が称賛されたルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長は、事件から四カ月後に危機管理コンサルタント会社ジュリアーニ・パートナーズを設立した。

④クリントン、ブッシュ両政権でテロ対策を担当し、ブッシュ政権を猛烈に批判したことでも知られるリチャード・クラークは現在、セキュリティーとテロ対策専門のグッド・ハーバー・コンサルティング社の会長の座にある。

⑤一九九五年までCIA長官を務めたジェームズ・ウールジーは、セキュリティー企業に特化した未公開株投資会社パラディン・キャピタル・グループの代表であり、大手戦略系コンサルタント会社ブーズ・アレンの副社長も務める。

⑥9・11の際に連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官の座にあったジョー・オールボーは、事件のわずか一年半後にュー・ブリッジ・ストラテジーズ社を設立、金のうなる政府契約事業やイラクでの投資機会と企業との”橋渡し”を行なっている。

⑦後任者のマイケル・ブラウンもわずか二年で辞任し、災害準備に関するコンサルタント会社マイケル・D・ブラウン・LLCを立ち上げた。」

「今辞めてもかまわないかな?」
「ハリケーン・カトリーナ災害のさなか、ブラウンがFEMAの同僚に送ったのが、「今辞めてもかまわないかな?」という悪名高いEメールだった。この言葉はまさに彼らの本質を表している。大型契約を扱う政府部署で立派な肩書を手にし、これから何が売れるかについての内部情報を収集したら、即座に辞めて政府内のコネを企業に売り込む、というわけだ。もはや公職に就く動機は、惨事便乗型資本主義複合体で働くための予備調査でしかなくなってしまった。」

コーポラティズムの構図:
多くの政治家が政府と産業界の両方に同時に身を置くことを当然の権利と思うようになった
「プッシュ政権時代の革新は、政治家が二つの世界を行き来する際の変わり身の速さではなく、多くの政治家が政府と産業界の両方に同時に身を置くことを当然の権利と思うようになった点にある。リチャード・パールやジェームズ・ベーカーのような、明らかに戦争や復興の民営化ビジネスと深いつながりを持つ人々が政策の決定に関与し、トップレベルに助言を与え、あたかも私利私欲のない政治エキスパート然としてマスコミで発言する。彼らはまさに、コーポラティズムの使命を身をもって達成しているのだ。安全保障の名のもとに政治と企業のエリートが完全に融合し、国家が産業組合のトップの役割を担うと同時に、契約経済の仕組みを利用して最大のビジネスチャンスを提供するという構図である。」

「過去三五年間、サンティアゴからモスクワ、北京、そしてブッシュ政権のワシントンまで、世界各地で見られた企業上層部と右派政権の結託は、一種の逸脱行為 - マフィア資本主義、大富豪資本主義、そしてプッシュ政権下では「縁故資本主義」 - として片づけられてきた。だが、これらは例外的な逸脱行為などではなく、シカゴ学派による改革運動が、民営化、規制撤廃、組合潰しの三位一体政策によって導いてきた結果にはかならない

ラムズフェルドとチェイニーが、惨事産業に関連する持ち株と公的義務の二者択一を頑として拒んだことは、正真正銘のコーポラティズム国家の到来を告げる最初の兆しだった。」
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