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消費税増税が最大の障害 効かなくなった「異次元緩和」
2014.10.12 07:04
【日曜経済講座】編集委員・田村秀男
今月1日以降は中国の国慶節休暇週。中国人ツアーのラッシュだと聞いて、東京・銀座に足を運んでみた。デパートの有名ブランドのバッグ売り場を覗(のぞ)くと、日焼けし、ギラギラした顔つきの中年の男たちが目に入る。「ニイハオ(こんにちは)」と話しかけると、「日本はとにかく安い」とご満悦。「女たちへのみやげに何個もまとめ買いする者もいるよ」とか。何しろ、年10%前後の高利回り信託商品も持つ中国の中間層や富裕層のフトコロは豊かだし、人民元は円に対して昨年初め以来約25%高くなった。
円安が中国など外国人観光客の数を増やし、高級デパートの売り上げ増に貢献しているには違いない。が、われわれにはおよそ別の世界の生業のようだ。日本人ときたら、預金金利はゼロ、増える税負担と物価上昇のために使えるおカネは減っている。
いったい何が起きているのか、まず結論を言おう。
今年4月の消費税増税を機にアベノミクスの主柱である「異次元金融緩和」の効能が失(う)せたのだ。ほぼ1年前、金融緩和で増税による副作用を打ち消せるとみて、安倍晋三首相に増税実施を決断させた黒田東彦(はるひこ)日銀総裁はオウンゴールを演じたと、筆者は断じる。
アベノミクスは異次元緩和に加え、「機動的財政出動」「成長戦略」の「三本の矢」で構成されるが、成長戦略には即効性がない。財政出動の柱は公共事業だが、建設関連の職人不足や資材価格高騰などで消化難に陥るなどの弊害が目立つし、持続的な成長にはつながっていない。
日銀が年間六十数兆円もの資金を発行して、金融機関から国債などを買い上げる異次元緩和策は、市場金利を押し下げてきた。金利を生まない円の価値は金利が高いドルに対して下がると市場が予想するので円安となる。円安は輸入コストを上昇させる結果、消費者物価を押し上げる。
その結果、名目金利から物価上昇分を差し引いた実質金利は全般的にマイナスに転じる。円建ての金融資産は目減りすることになるので、ますます円安が進む。円安で輸出企業の収益が増えて株価が上がるし、輸出が有利になるので、国内での生産や投資が増え、雇用や所得の増加につながるという筋書きだ。金融緩和の最大の狙いは円安であり、円安基調が続けば、物価も賃金も上がるので、15年以上も続いてきた慢性デフレから脱出できると黒田総裁ら日銀幹部は踏んだに違いない。
ここでグラフを見よう。円の対ドル相場を含め、アベノミクスが始まった平成24年12月時点を100に置き換えて経済指標を月ごとに追った。上記のシナリオ通り、円安軌道が生まれ、輸入物価上昇に引き上げられるようにして消費者物価もすこしずつ上がり始めた。鉱工業生産も上向いた。ところが家計の消費水準の回復の足取りは重い。日本のデフレ病とは、物価が下がり続けるばかりではない。物価下落以上の度合で賃金が下がる、つまり、実質所得が下がる。収入が目減りするのだから、家計の消費は増えようがない。
そこに追い打ちをかけたのが4月からの消費税増税である。消費者物価上昇率は昨年9月から1%台に乗ったが、今年4月以降は一挙に3%台半ばにジャンプした。春闘によるベアも物価上昇に追いつかず、実質賃金は押し下げられた。家計消費は4~6月に戦後最大級の落ち込みをみせた後、7、8月も低水準が続く。企業のほうは在庫の急増にあわてて、減産に転じている。消費税増税前の駆け込み需要後の急減から7月にはV字形に反転するという楽観論は、実質的な家計収入の減少という日本病を甘くみた。
今、産業界では円安について見方が二極に分かれている。輸出業種を中心とする大企業は円安を歓迎するが、輸入コスト上昇に悩む中小企業や地方の住民からの反発が高まっている。
黒田総裁は9月16日時点で円安について「自然な形」と述べた。筆者は円安容認に異論はないが、黒田さんは大事なポイントを外している。消費税増税の回避である。
焦点は今や、来年10月予定の消費税率再引き上げをめぐる是非論議だ。4月の8%への税率アップが、金融緩和・円安・脱デフレの道を破壊した現実を無視するようだと、金融緩和と補正予算の組み合わせで増税ショックをかわせるという、破綻したはずの増税論理に押し切られかねない。その結末は円安下でのインフレと不況、いわゆる「スタグフレーション」の局面だ。銀座でみた風景の明暗は一層どぎつくなるだろう。
(おわり)

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