2025年5月7日水曜日

「トランプ政権、学術誌への攻撃を開始」(仏ルモンド紙); 「国家の科学機関における歴史的な粛清、連邦研究資金の政治的管理、大学運営への干渉に続き、トランプ政権は今や学術文献そのものに矛先を向け始めた。(石田英敬)   

 


〈ツイート全文〉

 「トランプ政権、学術誌への攻撃を開始」

仏ルモンド紙

国家の科学機関における歴史的な粛清、連邦研究資金の政治的管理、大学運営への干渉に続き、トランプ政権は今や学術文献そのものに矛先を向け始めた。

https://lemonde.fr/sciences/article/2025/05/06/l-administration-trump-s-attaque-aux-revues-savantes_6603260_1650684.html


アメリカの複数の学術誌が、科学的な議論において偏向していると連邦検事から問いただす書簡を受け取った。また、連邦資金で運営されている二つの学術誌は、論文の投稿受付を停止した。

国家の科学機関における歴史的な粛清、連邦研究資金の政治的管理、大学運営への干渉に続き、トランプ政権は今や学術文献そのものに矛先を向け始めた。4月下旬以降、複数の学術誌が、ワシントンD.C.管轄の連邦検事であり、第47代アメリカ大統領(ドナルド・トランプ)の側近であるエドワード・R・マーティン氏から、査問的な書簡を受け取ったことを明かした。

環境と健康の関係を専門とする『Environmental Health Perspectives(EHP)』および『Journal of Health and Pollution(JHP)』は、連邦政府の所管である国立環境衛生科学研究所(NIEHS)によって発行されているが、4月23日、研究論文や調査記事の投稿受付を「最近の運営手段の変更」により当面停止すると発表した。

米国内の学会が発行する『Obstetrics & Gynecology』誌も、アメリカ国内報道において、マーティン氏からの書簡を受け取ったことを認めた。『Chest』誌および、最も権威ある生物医学誌のひとつである『New England Journal of Medicine(NEJM)』の編集長たちもまた、同様の書簡を受け取っている。

マーティン氏は書簡でこう述べている。「近年、貴誌のような出版物が、さまざまな科学的論争において党派的な立場を取っている、つまり広告や資金援助に応じて特定の立場を採用していると自認するようになっているとの報告を受けております。読者には期待があり、貴誌には責任があります」。

この書簡には、編集者が回答を求められる一連の質問が添えられていた。「異なる意見を掲載することを受け入れているか?」「国立衛生研究所(NIH)などの公的資金が研究成果にバイアスを与える可能性についてどう評価しているか?」「掲載された論文の著者による誤情報拡散の疑惑について、どう対応しているか?」などである。この書簡について、『NEJM』の編集長エリック・J・ルービン氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の取材に「ぼんやりとした脅迫のようだ」と評している。検事は、5月2日までの回答を求めていた。


対立の火種

『NEJM』の関係者によれば、編集長はすでに回答を送っており、そこでは「医療誌の編集上の独立性と、アメリカ合衆国憲法修正第一条によって保障される言論の自由」を支持すると明言したという。また「NEJMは学術的対話を重視し、著者・読者・患者に対する支援に今後も尽力する」と述べている。

今回の事態の背景には、妊娠中絶権の制限が女性の健康に与える影響、地域・人種・ジェンダーによる健康格差の調査、トランスジェンダーの研究参加をめぐる問題、ワクチン接種キャンペーンの有効性などトランプ政権にとって不都合なトピックが多数存在する。特に、トランプが任命した保健長官ロバート・F・ケネディ・ジュニアは、ワクチンと自閉症スペクトラム障害の因果関係に関する根拠のない発言で知られている。

何誌が書簡を受け取ったのか、どのような基準で選ばれたのかについては、マーティン氏の事務所からの回答はなかった。英医学誌『ランセット』は4月26日付の社説で、「医療誌も、トランプ政権による科学攻撃の例外ではない。NIH(国立衛生研究所)やCDC(疾病対策センター)、大学病院などと同様に標的にされ得る」と警告している。

現在のところ、マーティン氏の通達が実質的な影響を及ぼした形跡はないが、英『BMJ(British Medical Journal)』の調査によれば、報復を恐れて言及を避ける学術誌もあるという。一方で、EHPおよびJHPは連邦資金に直接依存しており、すでに予算を打ち切られたことで論文受付の停止に追い込まれている


「EHP」誌が標的に

「EHP誌は、環境と健康の関係を扱う分野において、特別な地位を有している」と、仏国立衛生医学研究所(Inserm)の疫学者レミー・スラマ氏は語る。1972年に創刊されたEHPは、同分野で最も古く、かつ厳格な査読で知られる学術誌のひとつである。

EHPが対象とする研究分野は、環境規制の緩和と気候変動否定を政策の柱とするトランプ政権と鋭く対立する。「EHPは、PCB、農薬、PFAS(有機フッ素化合物)、可塑剤(フタル酸エステル、ビスフェノール類)などの健康影響について、非常に多くの研究を掲載してきた」とスラマ氏は指摘する。1993年には「内分泌かく乱物質(環境ホルモン)」の最初の定義を掲載し、気候変動が健康に与える影響についても長年にわたり研究を紹介してきた。

これまで、EHPは米連邦政府の資金で完全に運営されてきた。読者は無料で閲覧でき、著者側にも掲載料はかからなかった。「商業誌は、掲載数が収入に直結するため、多くの記事を載せるインセンティブがある。EHPのようなモデルは、厳格さと質の高さを保証する」と、バルセロナのグローバルヘルス研究所の疫学者で副編集長のマノリス・コゲヴィナス氏は語る。

しかしこの特異なモデルこそが、今や問題視されている。NIHは「今回の停止はEHP誌終了の兆候ではなく、影響力のある研究を発表し続けるための、より合理的なモデルへの移行を目的としている」と説明。「EHPが今後も科学界に貢献できるよう、持続可能な運営モデルを模索している」としている。

だがコゲヴィナス氏は、「EHPが自由な運営を継続するためには、もはや連邦機関の傘下を離れ、第三者機関に移行する必要がある」と主張。「現政権下では、雑誌の編集上の独立が確保されていない。こんな状況では、まともな学術誌の運営などできない」と語っている。






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