東京新聞
原発停止が主因じゃない 貿易赤字
2014年4月12日 朝刊
エネルギー基本計画は、東京電力福島第一原発の事故後、全国の原子力発電所が停止し、火力発電のために必要になった原油やガスなど「化石燃料の輸入が増加」したことが、貿易収支を悪化させたと強調した。原発の停止により、輸出でお金を稼ぐ日本の経済成長モデルが崩れてしまった、という理屈だ。だが、民間シンクタンクは貿易収支の悪化の原因が原発停止ではなく、企業が海外生産を増やした産業構造の変化の影響だと分析する。政府の説明からは、原発停止の影響を強調し再稼働に結びつけたい思惑がにじむ。 (吉田通夫)
日本の貿易収支は二〇一一年に輸入額が輸出額を上回り三十一年ぶりに赤字に転落し、一三年の赤字幅は過去最大の一一・五兆円となった。
赤字の理由について、エネルギー基本計画は化石燃料の輸入増加以外の大きな理由を記載していない。原発停止による電気料金の値上がりの影響も強調し、企業の負担増が業績悪化につながり、「海外への生産移転などの悪影響が生じ始めている」と書いた。
だが、大和総研はリーマン・ショック後の急激な円高をきっかけに進んだ産業空洞化が主因だと指摘する。材料費や人件費などの費用を少なくしようと国内のモノづくり拠点が海外に移ったため輸出が減る一方、海外からさまざまな製品の輸入が増え、試算では原発が稼働していても収支を七兆円も押し下げている。
一二年から一三年にかけた円安の進行は、輸入額の増加という影響を大きくし、貿易収支は三兆円悪化。燃料の輸入増加で四兆円の影響も加わるが、斎藤勉エコノミストは「原発が再稼働しても、大幅な貿易赤字は解消しない」という。
京都大学経済学部の植田和弘(うえたかずひろ)教授は「新エネルギー産業の振興など、新しい経済モデルを模索するべき時期に来ている」と分析。「エネルギー戦略も新しいモデルに合わせて練るべきで、貿易赤字だから原発を再稼働しようというのは本末転倒だ」と再稼働ありきの政府の姿勢を批判した。
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