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再増税、慎重な見極めを=前例なき貧困とデフレの社会
消費税率の5%から8%へのアップは、1997年以来の引き上げとなる。このときは消費税増税後に経済が崩れ、日本は金融恐慌のふちに立たされた。政府は、97年の失敗を教訓に「今回は想定し得る全てのリスク要因を勘案し十分な経済対策を打った」と胸を張る。しかし、われわれを取り巻く環境は、経済的にも、そして社会的にも、17年前に比べ大きく変化した。来年10月に予定されている10%への再引き上げは、それらを視野に入れた慎重な見極めが必要になる。
97年と何が違うのか。まず、社会構造が変質してしまった。政府は税率引き上げに合わせ、「弱者対策」として1万円を支給するが、その対象人数は2400万人に達する。これに210万人の生活保護受給者数を加えると、人口の五分の一を超える人々が「弱者」に分類されることになる。17年前には見られなかった現象だ。
堅固な中間層の存在は、社会の安定や経済の持続的発展に欠かせない。しかし、2000年代以降は中間層が崩れ、貧困が拡大した。消費税率引き上げという大衆課税の強化が、増大した「弱者」層の生活を圧迫し、閉塞(へいそく)感を一層強めれば社会の不安定化につながる。本来なら政治が敏感でなければならないポイントだ。
デフレ下での増税となることも17年前と違う。日銀の「異次元緩和」による円安で物価は上昇傾向を示しているが、まだ「デフレ脱却」を宣言できるほどではない。
今年の春闘では大手企業を中心に賃金水準を底上げするベースアップが実現したが、全体で見れば、賃金の上昇率は増税分を含めた物価アップに追い付きそうもない。専門家の間からは「増税前の消費がパッとしない」(SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミスト)という懸念の声が聞かれた。増税前の消費の山が低ければ、増税後の反動減も小さいことが予想される。だが、盛り上がりに欠ける原因が、デフレから抜けきれない日本経済の勢いのなさにあるのなら楽観は禁物だろう。
貧困層の増大やデフレといった状況の中での税率アップは、日本にとって前例のないことだ。安倍晋三首相は年末にも10%に上げるかどうかを決断するという。経済の体温を示すさまざまな統計データに目を凝らすだけでなく、社会の変動をも注意深く観察して吟味を重ねるという姿勢が求められる。(時事通信社解説委員長・軽部謙介)。(2014/03/31-15:35)
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